猫梟合宿~黒尾&赤葦~

   (いいいいっ、今、もしかして…っ!!?)


『ときめく』何かを探しながら、ぷらぷら月光浴していたら、暗闇の向こうから…どこぞの猫。
こんな時間、こんな場所で、一体何をやってたんだか?と、一瞬だけ想像しかけて即、止めた。
俺が探しているのは、心臓に悪い方で、心に良くないやつじゃない。多分、コレはそっち系。

見て見ぬフリが、最適解。存在すら気付かなかった態で、別の道へ行こうとしたら、
向こうからこっちに、真っ直ぐ近付いてきて…意味不明かつ心臓直撃なことを勝手にベラベラ。
こんな時間、こんな場所で、うろうろ歩き回ってるなんて、さっ、探しモノぐらいしか、ない!
だから、言い当てられたのは、偶然よりも蓋然性の高いことだから…

   (今の『ドキがムネムネ』は、ノーカン!)

ノーカンというより、孤爪自体にときめいたわけじゃない。これは物凄く重要。
孤爪が匂わせた『探しモノ』に、好奇心を若干そそられただけで、そわっとしたというのが正確。
仮に『探しモノ』を探し当てた時、本当にそれが『ときめく』何かだった場合においても、
そのモノに対して俺がときめいたのであり、孤爪に対してではない。孤爪はただの…きっかけ。

だとすれば、少々癪ではあるものの、孤爪が示した『この先』とやらに、
本当に俺の『探しモノ』とやらがあるかどうか、確認しに行かなければならない。
ま、まぁ、孤爪に言われなくとも、俺は元々、そっちに行く気満々だったし!
えーっと、できるだけ音も気配も消して、ぐる~っと部室棟の裏へ回って、
最大限ときめくよう、外壁の角から飛び出す…猫みたいに?あれ、何か言うんだったっけ?
軽く腰を屈め、勢いをつけ、全力で…ジャンプ!

「にゃーんっ!!!」
「うおわぁっ!!?」


飛び出した先は、月明りもほとんど届かない所。
そして、小さく丸まって座っていた『誰か』が驚嘆の声を上げ、その声に俺も盛大にビックリ。
いやいや、その前に、コンクリート流し!?このままじゃ、不時着もしくは激突っ!!!

「危ねぇっ!」
「っっっ!?」

咄嗟に腕を伸ばした『誰か』が、激突寸前に俺を思いっきり引き寄せ、胸に抱き込んでくれた。
俺は無事(?)に、その『誰か』の上に不時着…全身も全息も全ビックリも、全て受け止めて貰った。

「………っ」
「……っっ」

焦点も合わない、至近距離。加えて、暗闇?
まずは『誰か』の正体を確かめて、全身全霊でゴメンナサイをしなければ!!

「一体どこの、お転婆猫…?………???」
「猫ではなく、猫頭鳥…梟?………???」

相手から発せられた質問のはずなのに、まるで自分が喋ったような、変な感覚。
そして、自分が発した回答が、自分以外の唇を動かしたみたいに、何か…重い?
身に覚えのまるでない、あったかくて柔らかい感触に、お互い揃って「???」と首を傾けると、
今度は鼻と…鼻?がぶつかり合い、おでこをサラサラと髪の毛?がくすぐった。

「あっ、赤葦…で、間違いないよな?」
「はっ、はい…黒尾さん、ですよね?」

喋るたびに『ふにゅふにゅ』触れ合う、鼻~顎の間にある、お喋り等に用いる、顔面配置器官。
不時着した場所がどこかを考え…てはダメだ!と同時に判断し、
黒尾さんは俺を抱えたまま上半身だけを起こして抱き直し、俺はその背中にしっかり腕を回し、
お膝抱っこ(抱擁?)みたいな恰好で、お互いにお互いの体中を…高速なでなで。

「どどどっ、どこも、ケガ…してねぇかっ!?」
「だだだっ、大丈夫…某所他は平気ですっ!?」

「え!?ど、どこだっ!?」
「強いて言うなら、心臓?」

「なら平気だな~!俺も似たり寄ったりだ。」
「そうですよね~!落ち着けば無問題です。」

よーっし、それじゃぁ早速、全力で落ち着こう!このままちょっとだけ、横にずれるぞ。
そう言って黒尾さんはお尻2つ分移動し、元々居たらしい場所…流し台へ背を預けた。
それから、全力で落ち着くために、なでなでの速度を徐々に落としながら、
心臓に回り過ぎた血を脳に送るような、クールダウン系の話を始めることにした。


「ところで、赤葦は何しにこんな所へ?」
「『ときめく』何かを、探して来いと。」

誰かにときめいてもらって承認欲求を満たそうとするのは、結果的には心に良くない。
そうではなくて、心臓に悪い方…自分自身が『ドキがムネムネ』と、ときめく人であり続けたい。
赤葦も、そういう『ときめく』何かを探して…チャンスがあれば掴んで来い!

「…とのことで。相変わらずといいますか。」
「さすが木兎…あやうく惚れちまいそうだ。」

「むしろ、自分に惚れ惚れしたいようですが。」
「俺ら一般人がやったら、ただの自惚れだな。」

無茶振りは相変わらずだが、容赦なくド真ん中の真髄を突いてくるんだよな。
ホントに、アイツには敵わねぇよ…と、黒尾さんは感嘆?嘆息?を含んだ賞賛を呟いた。
そして一転、似たような話を、こないだ研磨が言ってたんだが…と、真面目な声で話し始めた。


「とある二次創作の、作家さんの話らしいが…」

絵師でもなく、大手でもなく、オフ活動もSNSへUPもしない、ただ趣味で小説を書いてるだけ。
創作サイトへ投稿し始めた頃、原作も連載中。マイナーCPでもそこそこ閲覧&評価を貰えていたし、
個人サイトを持つようになってからも、日参してくれる常連さんや、感想を下さる方々もいた。
自分が趣味で書いているものを、楽しんで読んでくれる人がいることに、喜びを感じていた。

だが連載が完結し、アニメも終了すると、まずは閲覧数が激減。評価もほぼされなくなってきた。
二次創作発表の主流は、即時性の高いSNSへ…創作の環境そのものも、ここ10年で大きく変わった。
流行りの終焉。環境の変化。徐々に創作意欲も存在意義も見失って…しっかり考え直したんだ。

「『趣味』とは、そもそも何なのか。」

自分が好きなコトを、ただひたすら努力して突き詰め、自分独りで愉しむのが、本来の姿では?
誰かと愉しみを共有したり、公開した作品を喜んで貰えたり、喜んで貰えたことに歓喜するのは、
副次的なもの…オマケで発生する幸運であり、それは『趣味』の本筋じゃないのではないか?

「誰かに愉しんで貰えれば。『ときめく』を与えられれば…なんてのは、烏滸がましい考えでは?」
「そもそも『趣味』は、自分が『ときめく』もの…公開の有無も閲覧&評価数も、無関係のはず!」

「閲覧&評価を貰えたのは、流行りジャンルだったから。幸運のオコボレに与った…自惚れてた。」
「現状こそ…実情。だから余計に、評価を頂けた時の喜びは、より大きく深く感じるでしょうね。」

木兎ばりに発想の転換をしてからは、自分が好きなように小説執筆を満喫。
人目にほぼ触れない個人サイトで、書く愉しみを追求…たまに投稿サイトへUPして生存確認。
丸8年かけてようやく、二次創作を『自分がときめく趣味』として、愉しめるようになったそうだ。

「自分の惚れ込んだキャラ達を、自分が創った世界の中で、幸せにしたいだけなんだ、と。」
「自分で努力し続けて創る、ハッピーエンド確約の世界。自惚れを超え…自己肯定ですね。」

ちなみに投稿系サイトでは、エロの有無で閲覧数は半減、腐向けタグ無しだと10分の1。
SNSと投稿サイトの閲覧数比は10:1、投稿サイトと個人サイトで100:1…ほぼ皆無。
自分独りの空間(有料サーバー広告もなし!)で、自分だけの満足を探し求める、贅沢な愉しみだ。

「『趣味』…自己中の極み、かもしれませんね。」
「じっ、事故チュウ!?…やっぱそうだよな!?」

「………っ」
「………っ」


痛恨の…変換ミス。
せっかく良い具合に、おカタい考察をして(冷え過ぎなぐらい)冷静になれていたというのに。
スマン…と、俺の肩におでこを埋め、黒尾さんは吐息で苦笑い。
俺はドンマイです…と言う代わりに、反対側の肩におでこを乗せて、ぽんぽん背をなで話題転換。

「ところでっ、黒尾さんは、ここで何を…?」
「えーっと、強いて言うなら…期して待つ?」

「えっ!?キスしてます…っ!?」
「ドンピシャすぎな聞き間違えっ」

「………。。。」
「………。。。」


キョトンと顔を見合わせ、きっちり3秒。
自らのミスを反芻し終えた俺は、ぷしゅ~~~っと音が鳴るほど大赤面。
そんな俺を見て、黒尾さんは目を大きく見開き、月明りでもはっきりわかるほど、微笑んだ。

   (…っ!!?)

不意に見せたその柔らかい表情に、呼吸と…心臓が止まりかけた。
ドキドキを通り越して、全てが惹き込まれていくような、不思議な浮遊感に包まれる。

「なんでそんなに…満足顔なんですか?」

月光のように、静かな声。
自分で言ったはずなのに、自分じゃないみたい。
静かだけど、冷たさはなく、むしろその逆…本当に、俺が出した声なんだろうか?

問われた黒尾さんは、まるで聞き覚えのないだろう俺らしくない声ではなく、
その内容の方に、信じられない様子…心から驚いた顔をして、俺に問い返してきた。

「っ!?俺、今、満足顔…してんのか?」

こくり、と頷くと…ふわり。
もう一度頬を緩めると、俺を再度ぎゅっと胸に抱き込んで、ぽそぽそと零した。


「赤葦の『探しモノ』が、何か…」

俺には、わからねぇ。
予想外の事故的遭遇。あまりの驚きでドキがムネムネしたのは、お互い間違いねぇだろうが、
それは俺が『ときめく』存在だったわけじゃなくて、そういうタイミングだっただけ。
冷静に考えれば、それが一番、蓋然性の高い答えだってことぐらい、十分わかってる。でも…

話を逸らそうとはしても、俺との事故チューを嫌がっている感じは、全くないように見えた。
たったそれだけなのに、俺の方は勝手に、欠けた部分が満たされた気分に…
無意識のうちに俺が『期して待っ』てた相手は、赤葦だったんだな~って、納得しちまった。

「ストン、と…何かがハマった音がした。」

ずっと俺に、お膝抱っこされてても。こうやってギュっと、強く抱き締めても。
逃げようとも、離れようともせず、背に腕を回して抱き返してくれるだけで…

「飛び上がるほど…自惚れちまいそうだ。」


自惚れているとは、真逆。
耳を疑うほど『らしく』ない、か細く震える声。それ以上に、胸を震わせる…言葉。
それが何を意味しているか。その言葉に全身が震える理由ぐらい、俺にだってわかる。

   (い、今、もの凄いこと、言われて…っ!!)

抱き付くというよりも、しがみ付きながら。
上擦る声を必死に抑えて、何とか言葉を…自分の想いを、紡ぎ出す。


「『探して来い』と、指示されたモノは…」

黒尾さんでは、なかったかもしれません。
確かに、事故チューでは盛大に、ドキがムネムネはしました。でも、これもノーカンです。
これをカウントしてしまえば、ただの喜劇か、せいぜいラブコメで終わってしまいますからね。

しかし、本当に探し出すべきなのは、ドキがムネムネするものではなく、俺が『ときめく』モノ…
同じ『心臓に悪い系』かもしれませんが、俺の中に響き渡った音が、想定とは全然違いました。

「鼓動が止まる方…キュン、でした。」

どこをどう探しても、見つかりそうもない表情。
きっと偶然でしょうけど、満月の光みたいな笑顔を引き出せたのが、もしも俺だとしたら?
そう考えるだけで、胸がキュンと…『ときめく』って、これのことじゃないかなぁ、と。

「指示でなく、俺自身が探し当てたモノこそ…」

俺なりの『ときめく』モノを、自分自身で見つけられた。
その事実(奇跡)に、自惚れるつもりはない…自分自身ではなく、誰かに惚れ込むタイミングです。
だから、俺が今、言うべき言葉は…っ


「お待たせ、致しました…っ!」




- 続 -




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No.017 自惚れる

2023/12/05 ETC小咄