「俺、ときめく人に…なりたい。」 「そうですか。では、明日も頑張って下さい。」 さぁ、明日も早朝より練習ですので、いいかげんそろそろ寝落ちして下さいませ。 梟谷学園があてがわれた部屋の隅で、黙々と残業をこなしていた赤葦は、 もうすぐ満ちそうな月をギラギラ眺め、一向に寝ようとしない木兎に痺れを切らしはじめていた。 布団に籠りたくなるようなBGM…怪談話でも流してやろうかと思いかけていた時、 木兎がごくごく静かな(!?)シリアス声(!?)で、月に向けて囁いた(!?)。 その異常事態(?)に、半分夢の国に居た梟達は、バッチリと現に呼び戻された。 だが、赤葦はごく淡々と、いつも通りの『聞く耳持たない』系のスルーであしらった。 木兎が突拍子もないこと言い出すのは、馴れっこだろ!?でも、今日は何か雰囲気違うじゃん! ちょっとは構ってやれよ赤葦!!と、ツッコミたくもあれど、赤葦の不機嫌さもビシビシ… 結局、梟から狸に変身し、まるで噛み合わない二人の会話に、聞き耳を立てた。 「俺は、ときめく人に、なりたいの!」 「ですから、精進を怠らぬように、と。」 「だーかーらっ!何でそうなるんだよっ!?」 「近道などない、という意味です。」 【ときめく(時めく)】 よい時勢(時代の情勢)にめぐり合って栄える。時を得てもてはやされる。 『今をときめく絶対的エース・木兎光太郎!』 そう世間様にもてはやされ、盛大にチヤホヤしてもらうためには、 人の心だけではなく、時勢即ち『タイミング』もガッチリ掴み取る必要があります。 それには時の運だけではなく、まさにそのタイミングで、それを成し得る技量も必要不可欠。 「『ときめく人』になれそうなチャンスを逃さぬよう、地道に努力をし続けるべきかと。」 「それは、まぁ、その通り…じゃなくてっ!」 「…では、チヤホヤされたいがメインですか?」 【いとやむごとなききにはあらぬが、すぐれてときめき給ふありけり。】(源氏物語・桐壺) それほど高貴な身分ではないが、際だって帝から寵愛を受け、栄えていらっしゃる方がいた。 『キャーっ!!木兎さん、ステキ!!!』 若くてカッコイイ(カワイイ)だけで、チヤホヤしてもらえるのは、人生のほんの一瞬です。 長きにわたって栄えるためには、それ以外の部分で寵愛を受けなければいけませんよね。 一時のパパ活や推し活ではなく、一生を支えて下さる太いタニマチを得なければ… 「売掛(ツケ払い)で借金して貢がれるより、保険金受取人に指定され生命保険を掛けて頂く方が…」 「それもそうだけど!…って、お前、実は凄ぇアブねぇこと言ってねぇか?」 「いずれにせよ、ときめく人になるためには、たゆまぬ努力と運が必要だという結論です。」 「結論は間違いねぇよっ!でも、全っっっ然、チッガーーーウ!!!」 結論が間違いないなら、もうこの話は終わっていいですよね?と、 『面倒臭い』を微塵も隠そうとしない顔で、赤葦はおやすみなさいませを言おうとした。 だが木兎は譲らず、ビシっ!!!と赤葦に指を突き付け、話を続けた… 周りの梟狸達も、木兎の寝かしつけを手伝わず、静観という名の加担をした。 「俺が言ってるのは、赤葦に『ない』やつ!」 たゆまぬ努力も、日々精進も、技量も。もしかしたら幸運だってもってるかもしれないけど! それでも今の赤葦はきっと、ツバメになれねぇ…絶対的に『ときめく』が足りてねぇよっ!! 「別に俺は、誰かにもてはやされたいとは…」 「そういう態度が、モテねぇっつってんの!」 『誰かに』…そう、それだよ! もちろん俺は、盛大にモテたいし、チヤホヤ寵愛?超愛されたい! ほんの一時でもいいから、モテ期到来を夢見たっていいじゃんか!承認欲求…あって当然だろ!? でも、俺がなりたいのは、そういうんじゃない。『誰かに』してもらうやつじゃねぇよ! 「誰かの行為?厚意?好意を期待して、それで承認欲求を満たすのは、心に良くない…だろ?」 「っ!!?そ、それは、そうですけど…」 俺は、そんな他力本願で誰かまかせな『ときめく』人に、なりたいわけじゃない。 俺自身が『ときめく』人でありたい…誰かとか、何かに『キュン♪』って、ときめき続けたいの!! 「ドキがムネムネ…心臓に悪い、ときめくだ!」 そのためには、勉強や練習、努力をいっぱいして、ときめくチャンスをキャッチできるように、 センサーを鍛えて、育てなきゃいけない…お前の言う通り『日々精進』で、間違いねぇよ。 人生をとことん楽しむには、その楽しみを感じられる力を、まず自分が持ってなきゃダメなんだ。 バレーボールを心から楽しむには、練習して上手くならねぇと話になんねぇのと、全く一緒! 「誰かにときめいて貰うんじゃなくて、俺がドキドキときめきたい。 愛されるよりも、愛したい…以上っ!」 「ボクトぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!」 「お前、マジで、カッケーーーッ!!」 「それでこそ、ウチのエースだっ!!」 木兎のまっすぐな『ときめく』話に、思いきりときめいた梟達は、スタンディングオベーション。 さすがの赤葦も、筋も理屈も背筋も通った木兎の漢前宣言に、心から感服せざるを得ず、 わっしょ〜い!と皆が木兎をチヤホヤする傍で、小さく拍手を送ってしまった。 「というわけで…捕獲!そして、放逐!!」 「ラジャッ!!あ~らよっと!」 「うわぁっ!?」 ほんのわずかに油断した隙に、赤葦はわっしょ~い!と先輩方に担ぎ上げられたかと思えば、 あっという間に部屋の外へ放り出され、バタン!と扉を閉められてしまった。 「日々精進。赤葦はもう十分頑張ってるから…」 「今この瞬間にも、到来してるかもしれない…」 「ときめくタイミングを、きっと掴めるはず!」 「お前に必要なのは、チャンスを探す努力だ。」 「ドキがムネムネする何かを、見つけて来い!」 業務がまだ残ってる?いいよ、そんなもん! あとで俺らがみんなで、片付け…られませんでしたゴメンなさい!って、一緒に謝ってやるから! たまにはお前も、サボり&夜遊びして…イライラをどっかに発散させてきてくれ!いやマジで。 「『ときめく』何かを見つけるまでは おウチに帰って来なくてもよろしい!」 「えっ、ちょっ、待っ…はぁ?」 俺、一言も『ときめく』何かが欲しいだとか、『ときめく』人になりたいなんて、言ってない。 なのに、それを探して来い!見つけるまで帰って来るな!とは、無茶振りにも程がある。 というより、こんな真夜中に寝床から放り出すなんて、とんでもない『可愛がり』じゃないか。 「サボりじゃありません。業務妨害です。」 まぁ、どうせあと30分もしないうちに、チヤホヤ祭にも飽きて寝落ちするだろう。 それまで少し、散歩がてら月光浴でもして…イラのムネムネを、和らげて来よう。 「夜遊び許可… 強制休憩、ありがとうございます。」 - 続 - *********** No.016 ときめく 2023/11/29 ETC小咄

