猫梟合宿~黒尾&赤葦~

「何してんの、こんなとこで。」
「ん-?いや、別に何も…?」


ゲーム機片手に寝床を抜け出し、部室棟の裏へ。
少しだけ『独りの時間』を過ごすため、自販機でジュースを買おうとしたら、
コンクリート流し台の裏から、月明りに照らされた影が、チラリと見えた。
こんな時間に、こんな場所で、『独り』を愉しんでるツンツン猫なんて、一人しかいない。

あいさつ代わりに『何してんの』と訊いてみたら、案の定、『別に何も』という返事。
幼い頃から、数え切れないぐらい同じやりとりをしてきた。
何してようと、別に関係ないし、特にこれといって興味もない。本当に、ただのあいさつ。
…の、はずだった。

   (『…?』……??)

微かに雑じった、語尾の『…?』。
それを聞き逃すほど、付き合いが短いわけじゃないし、猫耳は可愛いだけでもない。
何やってんだろうな、こんなとこで…という自嘲(自暴自棄?)の気配は、微塵もない。
言われてみれば、何やってんだろ?…むしろ、本人が一番、当惑しているようなカンジ。

ちょっとだけ興味が湧いてきて(俺は無関係確定っぽい)、まずは視線だけでチラ見。
もうすぐ満ちる月?校舎上の受水槽?見えない何か?に、ぼんやり視線と意識を漂わせていた。

   (あんま、見覚えのない…顔?)

本心は腹の奥底に隠すし、そもそも感情の波も割と平坦な『わかりにくい』タイプではある。
外側に見える表情からは、内側の感情はなかなか見えてこないけど、十分馴れてはいる。
でも、どれほど長い付き合いの相手でも、見ようと思って見ないと、ちゃんと見えない。

    (むしろ近い程、見ようとしない、かも?)


流しの下をじっと凝視し、夜闇に猫目を慣らす。
ペットボトルと共に顔を傾け、焦点を徐々にクロに合わせ、気付かれないようじっくり観察。

   (やっぱり…見慣れない、顔。)

見慣れないけれど、この顔は知ってる。
クロがこんな顔をするのが珍しいというだけで、表情としてはわりとよくあるやつ…だけど、
典型的なソレとは、少し雰囲気が違う。内側に潜むものが、ぼわっと曖昧。

そわそわもしてないし、焦ってもいない。勿論、イライラだとかもないんだけど、
胸の内にありそうな感情が、はっきりしない…そこにはまだ、『ない』ように見える。


「…人待ち顔。」
「…え、何て?」

「誰か、待ってんの?」
「いや、違う…?」

『いや』『違う』と、否定の言葉を発しながら、語尾の『…?』には、さっきの当惑とも違う。
そうだったのか…と、合点がいったような、それでもまだ、よくわかってない風で。
外側からは、どう見ても『人待ち顔』なのに、実はそうじゃない。じゃぁ、内側は?

「深夜に布団抜け出して、こんなとこで…秘密の逢引かと思った。」
「全然そう思ってねぇ顔してるぞ。」

「待ち合わせじゃ、ないの?」
「違うって、言っただろ。別に、俺は…」

「待ち合わせじゃないけど、誰かがここにやって来るのを…期して待つ?」
「…っ!!?」

あぁ、そうか。
夜中、目が覚めて。脳内はすごくクリアで、落ち着いているけれど。
寂しい?ともちょっと違う、どう表現したらいいのか、よくわからない…空虚感?
まるで今日の月みたいな、ほんの少しだけ足りないカンジが、胸の中にある。

そんな時は、のんびり月を眺めて、自分だけで『独り』と『無』の心地良さに浸る。
クロも今まで通り、そうやって夜を愉しんでいたはず…『そんな顔』をしてた自覚は、なかった。

   (無意識の内に、欠けた部分を満たそうと…)

足りない?内側を満たすのは、散々とした夜風でも、煌々たる月光でも、欝々な俺でもなさそうだ。
ゲームや読書、ネットサーフィン、筋トレ。そういった覧々?濫々な趣味でもない。
こんな時間、こんな場所に、もしかしたらやって来るかもしれないと、淡く期して待つような…

   (…色っぽい、誰かさん。)


   クルリとクロに背を、猫耳を夜闇へ向けて。
   足音と声を殺し、その場からそっと離れる。
   こちらへ向かってくる、静かな気配の元へ…
   俺を見て見ぬフリし続ける『誰かさん』に、
   すれ違いざま、これ見よがしにボソリ囁く。


「探しモノなら、この先。」
「えっ!?別に、俺は何も…?」

「そこの部室棟の裏。だけど…」
「…?」

体育館の脇を通って、ぐる~っと部室棟の向こう側に回って、裏側から行くのがオススメ。
夜回り中の猫みたいに、できるだけ音も気配も消して、外壁の角から飛び出してみて。


「『お待たせ致しました』って、言いながら。」




- 続 -




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No.015 待つ

2023/11/25 ETC小咄