接続不覚⑤



「川西の言う通り、思い込み…でしたね。」
「そう…みたい、やな。」


3人で楽しく歓談しているうちに、あっという間に新神戸へ。
在来線に乗り換えようとすると、「俺は、ここまで。お二人さん、またね~!」と、
こちらが唖然とする間もなく、川西はどこかへ走り去って行った。

わけがわからぬまま、二人はほろ酔い気分で今宵の宿・北家へ到着。
絵に描いたような『田舎の大農家(本家)』には、広い広い居間に、幾人もの人。
旅行から帰った長男が、見知らぬ誰かを連れていても、最初は大して驚かれなかったが…

「あら、初めましての方かしら?信ちゃん、どなた?」
「けいじくん。恋人…遊び友達や。」
「どっ、どうも…お世話になります。」

このやりとりに、その場が一瞬で凍り付き、その直後…二人以外の全員が、大号泣。
あの信ちゃんが、仲間以外を…生まれて初めて『友達』を連れて来たーーーっ!!!?
しかも『遊び』友達!?信ちゃんが、やっと遊ぶようになったーーーっ!!!?
恋人?それでも別にエェわ!信ちゃんに特別な人ができたことが、もう~めでたいっ!!

「皆の者、祝杯じゃっ!!」
「ばーちゃん、これで、心置きなく…っ」

京谷から託ったおかきセットを、お渡しする間もなく、てんやわんやの大歓待。
喜びに咽び泣きながら酒を勧めるばーちゃんの手を振り解き、二人で納屋の裏へ逃走。
田んぼの間を流れる、小さな用水路の脇に、ちょこんと並んで腰掛けた。


「しんすけさん。本当に…友達、いなかったんですね。」
「そういうけいじくんは、友達を家に連れてったこと…」

「ない、です。」
「…やろ?」

やっぱり俺ら、似た者同士やな。
そう柔らかく微笑むと、月も星も、キレイやろ?と、北は天を仰いで呟いた。


「川西…おもろい奴やったな。」
「同い年とは、思えませんでした。」

質実剛健、真っ直ぐに。
誰が見ていなくとも、ちゃんとコツコツ、真っ当に生きることが、是だと思っていた。
何事もしっかり熟考した上で選択し、誠意をもって対応することが、重要だと。

でも川西は、常に真っ直ぐじゃなくてもいいこと、遊びがないとむしろ危険なこと、
そして、熟考した上で選ばないという道もあることを、二人に教えてくれた。

「今すぐに最良の選択肢を選ばなくても、誠意がないわけではない。」
「今はあえて選ばずに、時間とゆとりをもって、相手と向き合うことも、また誠意…」

時間も労力も、無駄にしない。コスパやタイパも考え、できるだけ真っ直ぐ進む。
それがスマートかつ真っ当な生き方だと、勝手に思い込み…自己満足に浸っていた自分。
きっと周りの人にも、同じように在って欲しいと無意識に望み、圧迫していただろう。

「やっぱり俺達、モテなくて当然でした。」
「ガッチガチに窮屈な、ド変態やったな。」

良くも悪くも似た者同士の二人ならば、おそらく真っ直ぐガッチリ繋がり合えるだろう。
だが、あまりにも真っ直ぐすぎる故に、ゆとりなんてなく…むしろ固くて、脆いのだ。
このまま勢いで『練習』を『本番』にしていたら、早晩…川西先生召喚だったはず。


「遊び友達…これが、最適な繋がりかも?」
「天地がひっくり返る…大発見やったな。」

真っ直ぐ同士が繋がって、互いに緩め合う。
こんなコネクションの形があったなんて、人と人との繋がりは、本当に面白い。

「なぁ、今度…植物園に遊びに行かへん?」
「喜んで!一緒に…おデートしましょう!」

夜空に向かって、ハイタッチ。
その手を合わせたまま地面に下ろし、同時にふぅ~と息を吐いて、力を抜く。
あぁ、そうだ。こうやって…繋いだ手の温もりを時折思い出して、緩める練習をしよう。

二人はもう一度キュキュっと手を握り合い、静かに夜空を見上げた。
しばらくそのまま、ゆったりと星空観察を楽しんでいると、
星々の瞬きに合わせるように、ぽつりぽつりと北が言葉を紡ぎ始めた。


「けいじくんは…どうしたい?」

見ての通り、ウチの連中は、けいじくんが俺の恋人でも何でも、別に構わんらしいし、
けいじくん一人ぐらい家族が増えても、全然問題あらへん。離れを建ててもエェし。

「このままウチに居って、俺と一緒に…
北農園で働くのも、大歓迎やで?」

北はおどけた素振りで、片目をパチリ。
赤葦も大仰に驚いたフリをして、両眼をパチパチと瞬かせた。

「恋人に、そのセリフは…
もはや、プロポーズじゃないですか。」

これが恋愛シミュレーションゲームだったら、確実に♡ゲージMAX突破。
月明りと星の瞬きの下で、桃色ハッピーエンドまっしぐらですよね。
赤葦も微笑みながらそう返してから、ありがとうございます…と、小さく囁いた。

『イエス』とも『ノー』とも取れる、その掠れた声に、二人は暫し沈黙。
心地良い夜風に微睡みながら、肩を寄せ合って静かに星を眺めた。


「今、焦って選ぶ必要は、ない。でも…」

ちょっとだけ、想像してみようや。
3日前の晩、寝込みを襲って唇を奪った真意も、本当のキモチも、一切問わずに。
黙って想い人の前から姿を消し、一生逢わないまま、ここで過ごす道を。

「このまま一生、逢わない…?」
「サヨナラ、ちゃんと言えそうか?」

サヨナラを、黒尾さんに?
本当のキモチを聞かない…言わないまま?


「…え?あ、あれ…?」

月明りが滲み、目の前いっぱいに…流れ星?
それが自分の涙だと気付いた瞬間、赤葦は胸を押さえて顔を伏せ、嗚咽を堪えた。

「逢いたい…逢いたい、ですっ」

たとえ、俺が思い込んだ通りの答えで
この淡い想いが叶わなかったとしても

自分のキモチを、ちゃんと伝えないまま…
逢わないまま、サヨナラだけを言うなんて
このまま二人の『繋がり』を、絶つなんて

「どんな、形で、あれ…
あの人と、繋がって、いたい…っ!」

肩を震わせ、声を振り絞り。
ようやく自覚した自分のキモチを、素直に吐露できた赤葦を、北は優しく抱き締めた。

「それが、きっと…
恋しゅうてたまらん、ってキモチやな。」


念のため、キモチの『確認』と…
最後の『練習』を、しとこうか。
ちゃんと『想い』を、伝えるために。

北は抱き締めた力を少しだけ緩めると、涙に濡れた赤葦の頬を両手で優しく包み、
おでこにおでこを引っ付け、さっき川西先生から教わった技、発動!と、耳元に囁いた。

「けいじくん。俺のこと…好きやろ?」
「…もちろん。大好き…です。」

「そんなら、目…閉じて?」
「さっきからずっと、閉じてますけど?」

「…やり直しても、エェか?」
「しんすけさん、カッコ悪すぎです。」

クスクスと笑いを零し、涙を拭う。
赤葦は笑顔で北に抱き着き、ありがとうございます…と小さく囁き返してから、
はっきりとした声で、キモチを真っ直ぐに伝えた。

「あなたのことが、大好きです。
あなたに出逢え、あなたと繋がり合えて、本当に…幸せです。」


夜空を微かに震わせた、赤葦のキモチ。
それを聞き届けた北は、赤葦を胸にしっかり抱き込んで覆い隠すと、
赤葦…の、後方の暗闇に向けて、朗々と声を響かせた。


「聞こえたやろ?
今のが、けいじくんの『答え』や。」
「…?……っ!!!?」




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勘違いまたは人違いです5題
『4.心配しないで下さい。
あなたに黙って消えたりはしません。』

恋ってやつは5題
『4.追いかけると逃げていくらしい』



2024/12/19