「寝た…の、か?」
「みたい…です。」
北家に戻ると、酒盛りも終わっており、家人達はすっかり寝静まっているようだった。
真っ暗な居間と廊下を抜け、母屋の一番奥にある、八畳の和室へ通された。
調度品はごく少ないが、おそらくここが、北家次代当主の自室。同じ匂いがする。
(凄く、落ち着く…しんすけさんの香り。)
布団を3組並べて敷いて、3人で広~~~いお風呂に並んで浸かり、川の字でゴロリ。
しょーもない話で笑ったり、お夜食のおにぎりを食べたり。まるっきり合宿気分だった。
(これは一体、どういうわけだろう?)
宇内さんと三人でいる時とも、違う。無論、二人きりの時とは、比べることすら不可能。
しんすけさんという接続点を介すことで、ギリギリだった俺と黒尾さんの間にも、
穏やかでのんびりした空気感が漂いはじめ、三人揃って、何だか…ダラダラ?
俺の知っている黒尾さんとも、しんすけさんとも違うし、俺自身も…緩いカンジがする。
「黒尾さん、化け猫…被り忘れてません?」
「何や、ベッピン台無しやん。」
「てつろう、スッピンが一番可愛いの!」
「スッポンポンは?」
「一番可愛いスッポンやったか?」
「おっ、こりゃイッポン取られたな…って、中坊か俺らはっ!」
(中坊というより、中年のオッサン。)
大した昔馴染みでもなく、飲み屋で袖すり合っただけの、常連同士。
それがいつしか、ジジィになるまでグデグデ飲み友達に…
そんな想像がすんなり頭に浮かんでくる、不思議とシックリくる感覚だった。
(悪くないな、こういう繋がりも。)
黒尾さんも、俺自身も。
しんすけさんと一緒に居る時は、どういうわけだか…素?に、なってしまうような。
ちゃんとし過ぎた人の前に出ると、逆にちゃんとしてない自分が出てくるのだろうか。
いや、当のしんすけさんも、方々から漏れ聞こえてきた『北信介』とは、随分違う。
穏やかで、お茶目で、大ボケで。3日間共に過ごした印象は、ちゃんととは言い難いし、
黒尾さんが加わった今、更に全員が…
(リラックス…理なく素。)
「赤葦にしては、精度イマイチだよな~?」
「けいじくんも、親父ギャグ言うんやな。」
「その悔しそうな顔が、最高の賛辞です。」
そんなこんなで、部屋の奥から順に、しんすけさん、俺、黒尾さんが並んで布団に入り、
(この『並び』については、ひと悶着?あったが、結局これに落ち着いた)
おやすみなさいを言った直後、しんすけさんからはスヤスヤ~が聞こえてきた。
「おやすみ3秒とは、よく言うけどな…」
「普段は9時5時の人…だそうですよ。」
慣れない東京旅行から帰った、久々のマイお布団。しかも、既に日付が変わる直前。
さっきまでのワクワク合宿で、残り少ない体力も、使い切ってしまったのだろう。
実際、俺もかなり眠たい…目を閉じたら、きっと3分以内に大爆睡するに違いない。
うつらうつら、瞼が落ちるのをほんの少し留めるように、
俺にだけ聴こえる黒尾さんが小さな声で、黒尾さんが囁いた。
「北ちゃん、不思議な魅力の持主だよな。」
「宮兄弟が惚れ込むのも、わかりますね。」
「赤葦も、だろう?」
「はい、勿論です。」
何も考えず、心のままに素直に即答したが、黒尾さんからは沈黙だけが返ってきた。
そして、しばらく経ってから、ふぅー、という大きく息を吐く音と、吸い込む音、
そして、ごく真剣かつ、ごくごく微かな声が響いてきた。
「赤葦。この間は…すまなかった。」
「こちらこそ…すみませんでした。」
黒尾さんとは逆側の、しんすけさんの穏やかな寝息。
そのゆったりとした温かさが、凍り付きそうな俺の心と脳を、ふんわりほぐしてくれる。
スヤスヤに呼吸と心拍を合わせるように、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「宇内さんのこと、頼みますね。」
黒尾さんのキモチを…お二人の親密なカンケーを、遅ればせながら察したにも関わらず、
先日は我欲を優先し、酔っ払いの大ボケを止められず、本当に申し訳ありませんでした。
挙句、告白練習を、まさかのご本人様に聴かれてしまうとは…悲劇通り越して喜劇です。
「赤葦も、北ちゃんと幸せにな。」
こっちこそ、酔った勢いで、積年の想いを…寝込みを覆うとは、外道にも程があるよな。
その上、新恋人の実家までおしかけ、熱烈求愛の邪魔しちまって、どう詫びていいやら。
自業自得とはいえ、想い人の告白を目撃する罰を受けた…笑って赦してくれると助かる。
3日間開けて、ゆっくり、冷静に
自分の『想い』を、素直に晒して
自分達の『思い込み』に…苦笑い
「どうやらお互い、とんでもない…」
「大勘違い…してたってオチかよ。」
「人違いしてたわけじゃ、なかったと。」
「こっちは、人違いしてたみたいだな。」
「俺の勘違いでなければ、黒尾さんの『積年の想い人』というのは…」
「赤葦が、悲喜こもごもな告白本番を、ぶつけようとしてた相手は…」
(まさかまさか、こんな…っ!!!)
(こんな結末に、なるなんて…っ!)
喜びよりも安堵で、天井がじわり
わななく唇を抑える、熱いため息
期待に震える手を、布団から出して
熱い熱い手と、強く優しく接続する
(やっと…っ)
(繋がった…)
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