接続不覚⑥・前編





赤葦を悲しませてしまった報いは、遠からず必ず受けなければいけないが、
断罪の時は、心の準備をする猶予も与えてくれず、たった数日後に転がり込んできた。
今まで全く繋がりのなかった北信介の登場、そして…赤葦との『特別な』関係。

(こんなにも、早く…っ)

赤葦自身には、不可侵の呪縛は無関係だとわかっていたはずなのに、
いざ本当に目の前に突き付けられると…目の前がどこかもわからないぐらい、暗転。
こんなにショックを受けるほど、赤葦のことを想っていたっていうのに、
それについ最近まで気付かなかった愚鈍な自分に、笑いすらこみあげてきそうだった。

(ホンット、情けねぇよな~っ!)

あぁ、もう、どうにでもなっちまえ!
そんな気分に包まれながら、売り言葉に買い言葉。らしくなくツムサムと大衝突。

だが、半ばパニック状態になったツムサムと、真っ直ぐぶつかり合ったことが、
崩壊しかけていた俺の自我を、すんでのところで食い止めてくれた。
そして全く予想だにしなかった、別の繋がり…元上司・川西太一の乱入が、
ぶっ飛びそうになっていた意識を、強烈な力で引き戻してくれた。


北信介と赤葦京治は、俺が預かってるよ
東京駅から西へ…北さん宅へ向かうとこ
恋人同士が手に手を取り合い、実家へ…
この俺が一緒に行く意味、わかるよね?


「…え?はぁ~?お前、何言って…
ちょっ、待っ…あっ!」

ブツリと一方的に切られた電話に、滾っていた血の気が音を立てて引いた。
真意を確かめようと、何度も掛け直すが、川西には一向に繋がらなかった。

(繋がる…わけが、ねぇっ!!)

川西の専門は、仲違いの解決…離婚だ。
『コネクション!?』プロジェクトに登場するキャラとして、最もアウトな人選だ。
よりによって、ぶった切りプロのコイツが繋がってくるなんて、冗~~~談じゃねぇよ!

(コイツが、一番怖ぇのは…っ)

川西の専門は、より広義に捉えると、パートナー関係全般の調整。
繋がりを絶つことも、新たな繋がりを創り出すことも、同じく得意とするところ…
現行法では繋がれない同性婚や、法律婚を選ばない事実婚の場合等に、
夫婦間のルールを定め、まるで法律婚のような繋がりを法的に構築する専門家でもある。

(川西と行かせたら…ジ・エンドだ!!)

俺(と、おそらくツムサム)のせいで、普段通りとはとてもいえない心理状態の、赤葦達。
いつも『ちゃんと』している奴ほど、そうでない特殊かつ危機的場面に、意外と脆い。
巧いこと口車に乗せられた上、妙な思い切りの良さ(ヤケクソ)がそれを加速暴走させ、
とんでもない暴挙&決断を、身に覚えのないままアッサリ下してしまったりするのだ。

(川西との繋がりは…激変の転機になる!)


悠長に悩んだり、考えているヒマはないと、ツムサムを引き連れすぐさま東京駅へ。
ようやく三人の姿を発見したが、別の三人に阻まれ、手が届かないまま…
二口達に引き摺られて行くツインズと、西への新幹線を、力無く見送るしかなかった。

(遅かった…っ、すまん、侑、治…っ)

だがここで、ホームに残った青根が、俺に檄を飛ばしつつ、ギュギュっと握手。
その大きく温かい手の中に、小さなメモがコッソリ忍ばせてあったのだ。

(…ん?この字は…???)

メモに書かれていたのは、北家の最寄駅までの、乗り継ぎの情報らしきものだった。
最寄りの新神戸より先に行く直通新幹線は、先程三人が乗って行ったのが最後だが、
新大阪まで新幹線、そこから在来線等を繋げば、今日中に北家へ着けそうだった。

(3日経つ前に、行く…しか、ねぇ!)

感情の整理に、3日間。
それ以上経つと、新たな感情も生まれ、良くも悪くも、それ以前には戻れなくなる。
きっと明日、川西が仲介となり、赤葦と北の間に、新たな繋がりを結んでしまうだろう。

(マズイ…マズイマズイ、マズすぎる…!)

真っ直ぐに北を想い、目を腫らし
綺麗な涙を流した、侑と治の二人

このプロジェクトに関わったせいで
不覚にも、あの三人の繋がりまでも
絶たれてしまうかもしれない…っ!

(俺のせいで…っ!!)


今までのことも、これからのことも、何一つ冷静に考えられないうちに、最寄駅到着。
人の気配のない改札でポツンと待ち構えていたのは、あろうことか川西太一だった。

「…は?」

川西の登場は、激変の転機。
痛い程それがわかっていたのに、このタイミングでまさか、自分が喰らうとは。
新幹線の中で、一息もつかずにグルグル脳を回し続けていた疲れも相まって、
その場に足元からガックリ、膝をつきそうになってしまった。

(こんなとこで再登場!?早くねぇか!?)

いやいや、もっとこう、ガツーーーンとした劇的な場面で、ドドーーーンと再会…
ってのが、お約束というか、物語的には盛り上がるはず…ココでいいのかお前はっ!?
どこぞの敏腕編集者が見たら、遠い目でボツを言い渡しそうな、拍子抜け感だぞっ!?

(だ…脱力、しちまった。。。)


遠いとこまでお疲れさま~と、いつも通りの表情で、あっけらかんと笑う川西に、
聴き慣れた応えが返ってくるのを承知で、挨拶がてらに嘆息した。

「お前は一体、何を考えて…
一体、どっちの味方なんだよ。」

あらゆる意味でコネクターたる川西に、こんなことを聞くのは、愚問中の愚問。
案の定、首を擦りながら天を向き、軽く口笛を吹いてから、いつもの台詞をうそぶいた。


「俺はいつだって、中庸だよ。」

でもね、今回は『仕事』じゃないからね
強いて言うなら、どっちかっていうと…
一番太~い繋がりがある、後輩のため?

「俺は、黒尾さんのコネクション、かな。」

「…っ!!!」


この場面で、その真っ直ぐな目は…卑怯。
グっと堪え続けてきたものが、胸の中からせり上がって来そうになり、
呆れ返ってグッタリする仕種を繕い、顔を覆って大きく大きく溜息を吐いた。

(ズリィよ、お前は…っ!)

そんな俺に気付かないフリをしつつ、川西は持っていた紙袋のうち1つを掲げ、
わざとらしく?本気で?ニヤニヤと口元だけを覆い、やや大きめの声でヒソヒソ話。

「デキる先輩から、アドバイスだけど…」

宅飲みゴロゴロの恰好まま、慌てて飛び出してきたんだね~どこのオッサン?
学生時代の真っ赤なジャージに、革靴って…よく駅員さんとかに止められなかったね。
さすがにソレは、百万年の恋も冷めるだろうし、先様に失礼だから、着替えておいでよ。
勿論、洋服と交通費等は、後日キッチリ請求するから、楽しみに待っててね。

「あ、花束も買っとけばよかった?」
「バーカ、いらねぇよ。」

紙袋を受け取り、多目的トイレに入り…その直後、俺は川西を中に引き摺り込んだ。


「…脱げ。んで、そのスーツ風を貸せ!」
「えー、こんなトコで、御無体な~ぁ!」

ド派手なジャケットに、柄物の短パン!?しかも左右の色が違う、派手派手なタイツ!?
過激なS茂田先生みてぇな衣装着て、ご挨拶をぶち壊しに行けってかっ!!?
他の奴ならまだしも、妖怪もビビる堅物コンビに、コレ着て会いに行くのは…

「お前、笑わせんのも、大概にしろよっ!」
「シリアスに偏ってたでしょ?だから、ちょっとだけコメディ寄りに戻そうかなって。」

「そこは、バランス取らなくていいだろ!」
「悪かったってば!ヤだ、脱がさないで~」

やっぱり、川西の登場は、良くも悪くも場を劇的に変える『転機』になった。
暗雲垂れ込め、重々しく塞がっていた俺を、笑いと共に救い出してくれるなんて。

(一生、敵わねぇ~っ!)

俺の回りには、カッコいい奴が多すぎる
どいつもこいつも、ホントに凄ぇ奴だし
尊敬してやまない、最高のダチばかりだ


「もし仕事クビんなったら、またお前の部下になってやるからな?」
「もし赤葦にフラれちゃったら、慰めて下さい先輩~じゃなくて?」

「マジで泣かさないで下さい、先輩。。。」
「無駄にカッコつけなくて、大変宜しい。」


*****


トイレで着替えて出てくると、別の紙袋…ごくごく普通の菓子折を渡された。
そして、駅の外に出ると、荷台に農機具等が積まれた、一台の軽トラが止まっていた。
川西は先程までの雰囲気をガラリと変え、軽トラに駆け寄ると、ビシっと腰を折った。

「大変お待たせしました。どうか…よろしくお願いします。」
「オッケー!お任せあれ!」
「???」

わけがわからぬまま、とりあえず一緒に頭を下げていると、
はーい、乗って!ほな、レッツゴー!の声に促され、川西は俺を助手席に押し込むと、
運転席の好青年は駅に独り残った川西に、バイバ~イ!と手を振って車をすぐに出した。

(えっ、またしても、急展開かよっ!?)

深く思考する隙を与えず、場の流れをコントロールするのは、常套手段。
俺自身もよく使う手だが、いざやられる側になると…結構、焦っちまう。
全く以ってヤらしい元上司だなと、心の中だけで苦笑いしつつ、
朗らかに鼻唄を歌う運転席の好青年に、できるだけ丁重にお伺いを立てた。


「えーっと、失礼ですが、どちら様でしょうか?川西とは、どういったご関係で…?」
「川西さんと会ったのは、ついさっきかな?かんぱ~い!の直前で、電話くれたんや。」

ホント、ギリッギリのタイミング!
ビールを口元で我慢したんは、一生恨み続けるけど、他でもないアラン君の頼みやし、
アラン君はアラン君で、着替えを待っとる間に、今しがた泣きながら電話くれたとこ!
俺のラブリ~な尻尾フレンド、ブラックのことを頼むわ~~~~ずびびびびってね。

「ブラックさんは、ウチのガチガチ兄貴と、ナニ繋がり?あっ、わかった!
融通も話も気も利かない、モテない地味オッサン繋がりやろ?兄貴の彼と同じく!」
「やかましいわ!っつーか、お前の兄貴とやらも、俺は今んとこ初対面未満だよ!」

自由奔放闊達自在!なにものにも囚われない、大らかな次男坊様なんだろう。
一瞬で場の空気と、ガチガチに警戒していた俺の心身をふわりと和ませてくれると、
どうせ今頃、侑君と治君も、どっかで泣きじゃくってそう~と、人懐っこく笑った。

(北信介の…弟、か。)

最後の最後に、おそらくバレーとはまるで関係のない星を、繋げてくるとは。
きっと、俺を北家へ送り届けるよう、迎えを頼んでくれたのだろうが、
あまりにも遠くて薄い接続点が繋がったことに、他人事のように感嘆してしまった。


「こんな風に、こんな形でも、人と人が繋がることって、あるもんなんだな~っ!」
「ホンマそれな!兄貴の恋人を奪い返しに来る男の送迎係になるとは、ビックリや!」
「ちょっ、その、言い方…っ」
「そこで、照れんなや。」

詳細は全然知らんけど、別に知らんでもエェわ。勝手に酒の肴にするだけやし。
今ウチん中、大盛り上がりやで~!信ちゃんモテモテ伝説に、ばーちゃん大フィーバー!
侑ちゃんでも治ちゃんでもない、別のイケメン連れて来た!しかも二人も!祝杯っ!!!

「俺もかよ!?」
「自分でイケメン言うんか、ブラック?」
「…スンマセン、調子乗りました。」
「アホ!そこは堂々としとけやっ!」

がら空きの脇に、チョップのドツッコミ。
本場のシゴキに本気で呻いていると、弟様はルームミラーの中で、穏やかに微笑んだ。


「ま、人と人との繋がりなんて、あってないようなモンやんな。
根っこや茎、枝葉や蔓みたいに、目に見えん…自由に脳内妄想して、エェってこと。」

でも、人も植物も、同じ生き物
番に巡り合うために生まれて…
うま~く育てたら、愛が実る!

今回の騒動をきっかけに
あの喧しい連中の間にも
新しい繋がりができたら
それでもう、本望やな〜

「勿論、勝手に妄想して遊んでエェのは、俺らみたいな『外野』だけやで。
当事者は、互いに真っ直ぐ伝え合わんと、元も子もなく枯れ果てるで?」

状況証拠やら、自分の思い込み
そんなもん、今は邪魔モンやで
自分と、相手のキモチだけ見て
ちゃんとしっかり、『繋ぐ』…

「繋げ、じゃなくて…繋ぐ?」
「主役は、アンタら自身や。」


さーて、着いたで!
兄貴らは多分、秘密基地…納屋の裏の、用水路らへんにおるはずや。
アツアツのイチャイチャ真っ只中かもしれんけど、そこはまぁ…ドンマイやな!
もし上手く兄貴から逃げられたら、ブラックを匿って、北家全員で慰めてやるから!

「どうせダメ元なんやろ?砕けてナンボ!」
「もっとマシな励まし方、あんだろっ!?」

あはははは~と豪快に笑い飛ばす弟様に、こちらからも思わずチョップを献上。
悪ぅないツッコミやで…と、親指を立てて脇腹を抑えながら、片目をパチリと瞑った。



「北農園とおにぎり宮、あとは俺宛に。
宇内センセのサイン…車代に欲しいな〜」
「わーったよ。帰ったら頼んでみる。
ビールと一緒に、贈っとくよ。」




- 後編へGO! -




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※笑顔仮面 →『接続模写』
※法律婚のような繋がりを~ →『泡沫王子』


勘違いまたは人違いです5題
『5.二人は巡り合うために生まれてきた
…違いますか?』

恋ってやつは5題
『5.うまく育てると愛に進化するらしい』


2025/01/03