猫梟合宿~遊園地にて~





「こりゃあ、凄ぇな!」
「これほどまでとは!」

音が出るほど渋々と、観覧車に乗り込んだ黒尾と赤葦。
しかもそのカゴが定員8名と知り、行列を1組分増やしてしまったことに、粛々。
だが、上昇し始めてすぐ、乗って良かった!と、素直に嬉々とした表情を出した。

「なるほど、こういうことでしたか!」
「みなとみらいの街全体が、遊園地!」

観覧車のある遊園地自体は、遊園地と称するのがおこがましいほど、慎ましいサイズ。
運河沿いにちょろっと、乗り物や遊興施設が並ぶ程度のもので、
入場無料でないとむしろ怒られるだろう、可愛いお散歩コース的な存在である。
だが観覧車に乗ってみると、ロープウェイ含め、見える景色の全てが、遊園地と一体化。
街全体が、テーマパーク『みないみらい』というコンセプトで作られていると実感した。

「ランドマークタワーに、三連のクイーンズスクエア。みなとみらい駅の真上だよな!」
「横浜港、ベイブリッジ、赤レンガ倉庫にハンマーヘッド。山下公園とマリンタワー!」

ここからではよくわかりませんけど、マリンタワーの奥あたり?が、中華街と山手地区。
外人墓地を含め、西洋館が立ち並ぶエリア。確か今は、各国のクリスマス飾りが…

「どの光か、わかりませんけどね!」
「街中がツリー、ともいえるよな!」

どんなに内面では疲れていても、どんなに冷静沈着な外面を装っていても、
赤と黒が混ざり、濃紺へと変わりゆく劇的な空と、光の海を目前?目下?にしていると、
観覧車の高度が徐々に上がるにつれて、気分も高揚。二人も珍しく声を上げた。


えーっと、ガイドマップによりますと、外人墓地は1854年、ペリーの二回目来航の際、
誤って黒船のマストから墜落死した水兵さんを、埋葬するために…

「え、ペリー!?黒船!?ちょっと俺にも、ガイド見せてくれ!」
「もちろん、どうぞ。本当に『歴史!』で、びっくりしますよね」

近未来を思わせるテーマパークの景色の中から、誰もが知る歴史上の人物名が飛び出し、
黒尾は思わず腰を浮かせ、赤葦の斜め前から真横に移動してきた。
一緒にマップを大きく広げ、ライトアップの光を頼りに、手元と外を照らし合わせる。

「あのちっさい丸いドームが、横浜税関…クイーンの塔?開港の時だから、江戸幕府!」
「元の庁舎は関東大震災で倒壊。今のは昭和9年建築…当時は横浜で一番高かったとか」

そういえば、以前二人でこの街を早朝散歩した際に、赤葦ガイドが教えてくれた。
このエリアは関東大震災の震源地近くで、壊滅。その時の瓦礫で山下公園ができた、と。
クリスマスイルミネーションで飾られた、煌びやかなテーマパークの中に、
震災を生き延びた歴史的建造物と、超高層ビルが並立し、調和の光を放っているのだ。

「正面の高い建物が、2020年開庁の新しい市庁舎。ここからの景色もオススメらしい」
「旧庁舎は歴史的建造物に認定、2026年にリゾート施設として生まれ変わるそうです」

ゆったりした歴史の流れを包み込む、まったりした空気感。
過去と未来が融合する、みないみらい独特の雰囲気が、観覧車の中にも入り込み、
空の色が混ざり合ったように、黒尾と赤葦の間にも、穏やかな時間が流れていく。

いつの間にか、疲れも強張りもなくなり、ホッと肩の力を抜いて、リラックス。

(なんだろな、この不思議な…心地好さ?)
(二人でいると、いつもこの…ふわり感?)

似たような役職の、似た者同士。
出会った時から、何となく気が合う?気が緩む?気張らなくてもいい?…気楽さ、かな?
まだ短い人生だけど、こういう相手と出会えるのは、凄い幸運なんじゃないかなぁ~と…
きっと、長い人生の中でも、そうそう出会えない確率だろうと、ふんわり直感していた。

(多分、長いお付き合いになる…)
(理由はないけど、確信…してる)

同じようなことを思っているんだろうなと、真横から伝わる温もりから、感じ合う。
あまりの心地好さに、気が緩んでしまい、ついつい、いつも通りの『素』が出てしまう。


「うーん、この夜景も、本当に素晴らしいっちゃ素晴らしいんだが…」
「歴史考察には、明るい方がいいですよね…文字も見えづらいですし」

日本を代表する美しい夜景を見ながら、全く色気のない感想。
マップに顔を近づけたり、離したり。目をぎゅっと引き絞って、遠くにピントを合わせ…
非モテをはるかに超え、まるっきりジジィな自分達に、思わず苦笑い。

だが、いつもよりずっと、間近にあった互いの顔に、息を飲むのを隠し切れず、
不自然だと自覚しながらも、黒尾は視線を外へ、赤葦は手元へ流し、
話をそれぞれ、『過去』と『未来』へ揺蕩わせた。

「えーっと、前回は早朝で、どこも開いてなかったから、建物外観しか見てねぇよな~」
「つっ、次はぜひ、空いている日中平日とかに、博物館等を一緒に見学したいですねっ」

(ぜっ、前回の、早朝散歩の時って…っ)
(つつつっ、次も、一緒に、だとか…っ)

並んで座る、背中側。
パシフィコ横浜の裏手にある、横浜港に面した臨港パークで、一緒におにぎりを食べて。
そのあと、(中略)…ぷかりさん橋まで、全力疾走で競争したんじゃ、なかったか?
本気の爆走でゼェゼェ、(中略)部分で起こったことと、赤葦のセリフの真意を、
確認することもなく…勝負の行方すら、あいまいなままで、今に至っている、ような?

重大な『過去』を検証することなく、今度は『未来』の約束っぽいことを、サラっと?
しかも、クリスマスイルミネーション輝く、夜景を眺める観覧車の中、二人っきりで?


「おいおいおい。梟谷グループ非モテ地味部門殿堂入りツートップだったよな、俺ら?」
「色気があるのは名字だけの、堅物中間管理職コンビが、このシチュエーションとは?」

「…ってのを、口に出しちまうあたり…っ」
「似た者同士過ぎて、笑えません、よ…っ」

いつも通りの考察に耽りつつ、いつの間にかさりげなく、真横に並んで座っていたとか、
自分達には不似合いな、誰もが憧れる絶好の『ザ♡遊園地!』な山場到来を自覚し、
さっきまでの『ゆったりまったりジジィ感』は、山手の彼岸まで飛んで逝き、
動悸×2のドキドキで、カゴが揺れて感じるほど、二人は動揺しまくってしまった。

「ゴメン赤葦、先に謝っとく。こういう時、ビシっとキめらんなくて…ヘタレで悪いっ」
「こちらこそ、大変申し訳なく…ここで目を瞑る可愛げと勇気なんて、俺にはなくてっ」

ホントは、過去なんて検証しなくても、わかっている。
同じ未来を夢見ていることだって、考察するまでもなく、お互い感じ取っている。
そろそろキめろと、心優しい仲間が、この山場をプレゼントしてくれたであろうことも…

(わかってる、けどっ!)
(わかって、いてもっ!)


あと、もう少しで、『頂』に辿り着く
そこから見える景色は、一体どんな…

おそるおそる、窓から視線を下ろし、マップから視線を上げて。
観覧車が動く速度に合わせて、そろりそろりと真横を向く。
震える手を上げ、指先を赤葦の頬へ…触れる直前、黒尾はその指を少しだけ下げた。


「青緑マフラーに、糸くずついてるぞ?」
「三日前に、買ったばかりなんですが?」

「あー、間違えた。ほっぺに、草餅のお粉がついてるぞ?…の方が、よかったか?」
「大福じゃなかったんで、お粉はついてなかったはず…最初の方が、まだマシかと」

「…奇遇だな。俺も先週、新調したんだ~」
「濃灰と黒の格子…凄く素敵な柄ですね~」

この場に至っても、絶妙に緩急を合わせて、安らぎをくれる相手に、頬も呼吸も緩む。
非モテで臆病な『おたがいさま』に、期待より先に安堵のため息が漏れてしまう。


「黒尾さんの色?毛並み?に、ソックリ…そういうのが、俺も本当は欲しかったんです」

そう言って赤葦は微笑むと、ゴクリと息を飲み込んでから、ゆっくり瞼を下ろし始めた。
黒尾はやや潤むその瞳を、より近くから覗き込みながら、やわらかく微笑み返した。

「惹かれてやまない、青緑色。なるほど、赤葦の目の色と、似てるから…だったんだな」

互いを表すマフラーを、そっと引き寄せて
瞳を閉じて、吐息だけでこっそり囁き合う


「まさにそれが、俺もずっと…欲しかった」
「でしたら、お互いに…交わし合います?」


『何を』とは、言わない・聞かないまま
『欲しかったもの』に、包み込まれた時
『頂の景色』を、二人は揃って見逃した




- 終 -




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※先日の早朝散歩 →猫梟合宿~観光地にて~


2025/12/04