「俺、はじめて…だったんです」
猫&梟がペアを組み、3日間ミッチリ仲良く過ごして学び合う『一匹一羽』イベント。
ペアの組み合わせは、猫又&闇路両監督が熟慮に熟慮を重ねて決めたらしいが、
最も手のかからなそうな色物コンビ・黒尾&赤葦が、開始3時間でまさかの大喧嘩。
咄嗟に闇路が割って入り、事無きを得た(ことにした)が、黒赤の一匹一羽は中断。
猫又&赤葦、闇路&黒尾という、例外的変則コンビを、その場で急遽結成した。
一日中、黒尾と赤葦は両監督の傍にピッタリ張り付き、練習や雑務のサポート。
やっていることは普段と大して変わりなく、まとめるチームが変わっただけ…だが、
似ているようで全然違う猫と梟の生活に、二人は疲労困憊を極めていた。
「あの人は、いつも、こんなキツい仕事を、こなしているんですか…っ」
「子梟も、ようやってくれたのぉ」
全ての業務を終え、いつぞやの秘密基地へと二人でやってきた、猫又&赤葦。
普段通りの表情を崩さず、淡々と監督サポートをやり遂げた赤葦も、
秘密基地に到着した途端、その場にがっくり膝をつき、ぐったりとうずくまった。
猫又はその横に足を伸ばして腰掛けると、よしよし…強張る赤葦の背を優しく撫でた。
そうしてしばらく、無言のまま肉球の温もりに身を委ね、心身を落ち着かせていると、
月が綺麗じゃな、という声に合わせて、ぽんぽん…猫又が腿を叩いた。
赤葦はビクリと背を震わせて固まったが、おずおずと顔を上げ、そこに頭を乗せた。
あったか~い太腿と、滑らかなジャージ
後頭部にぽよっと当たる、柔らかいお腹
二の腕を優しく撫で続けてくれる、肉球
猫又にしてもらう、二度目の膝枕。
激務疲れも相まって、その心地良さと安心感に、ふわ~っと力が抜けてくる。
ホッとした溜息と共に、あくびが漏れてきたのを見計らって、
心拍数に合わせるかのような、ゆったり穏やかな声で、猫又は赤葦に話しかけた。
「仲直り、できそうか?」
赤葦は少し逡巡し、ふるふると頭を横に小さく振った。
「わかり、ません…」
もちろん、したくないわけではなくて、文字通りに『わからない』んです。
えーっと、その、こういうの、不慣れといいますか、お恥ずかしい話、なんですけど…
「俺、はじめて…だったんです」
消え入りそうな声で、ぽそぽそと呟いた赤葦を、猫又は何も言わずに撫で続けた。
促すわけでもなく、急かすわけでもなく、リズムを崩さずただただ静かに…ぽんぽん。
あまりの気持ちよさに、赤葦は思わず大あくびし、うつらうつらと言葉を紡ぎ始めた。
「人生ではじめて、喧嘩…しました」
俺、きょうだいも幼馴染もいませんし、親戚付き合いもなく、いとこもよく知りません。
喋るのも得意な方じゃない…同世代と盛り上がるような話題も、あまり知らないんです。
だから、部活という業務を除くと、友達付き合い?も、ほとんどないので、
誰かと喧嘩するほど、我を通したり感情をぶつけた記憶が、ほぼありません。
一応、口の悪さは自覚しているので、極力出さないようには、していますが。
「あ、あの人との歴史考察…議論は喧嘩ではなく、いつも楽しいばっかりです」
だから、あの人相手に激高してしまった自分に、自分が一番びっくりしてますし、
冷静になってみると、自分の無礼さに愕然。本当に申し訳なくて、即刻謝りたい…でも。
「喧嘩もはじめてだったので、当然…
仲直りした経験も、俺にはないんです」
どうやって仲直りすればいいのか?
ちゃんと『ごめんなさい』を言えるのか?
たとえ、赦してもらえなかったとしても
傷付けてしまったことは、謝りたいです
「だけど、正直…怖い、です」
まっすぐ素直に気持ちを口にした赤葦に、猫又は「エェ子じゃのぉ」と微笑むと、
御褒美とばかりに、思いっきり頭をなでなでし、ゆったりと肩をあやし始めた。
「『ごめんなさい』を言うのは、誰だって勇気がいる…儂だって、怖くてたまらん」
「えっ、監督も、ですか?」
「当たり前じゃ。オトナもコドモもジジィも、ごめんねを言う怖さは、変わらんよ」
お互いに、その恐怖を乗り越えるからこそ、仲直りができるんじゃし、
場合によっては、喧嘩する前よりも、もっともっと仲良ぅなれる。それに…
「『ごめんね』を言える…決めるとこを決められる奴は、カッコエェと思わんか?」
ぽぽんっと、小気味よく肩をタップし、明るい声でおどけてみせた猫又に、
赤葦はこくこく頷いてから、猫又のお膝をふにふに揉みながら、明るく答えた。
「あの人、いつも…」
合宿中、食堂ですれ違いざまとか、用具倉庫でお片付け残業中とか、
ちょっと肩や腕が袖すり合ったり、背中がぶつかったりした時。
俺が「すみません」と言うよりも早く、「失礼!」と…シュっと言って下さるんですよ。
気取った厭らしさもなく、俺に対してでも、ごく自然にその言葉が口から出てくるのが、
何だかすごくスマートというか、ダンディな紳士みたいだなぁ~って。
「物凄く…カッコイイ、です」
あの人は、自分の非をちゃんと認めて、素直に謝ることができる『大器』です。
だから今回もきっと、次に面と向かった時、俺が勇気を振り絞る間もないぐらいすぐに、
あの人の方からアッサリ「ごめん」って、言って下さるんじゃないかと思っています。
悪いのはどう考えたって俺の方なのに、カッコ良く先制謝罪をキめられてしまうと…
「きっと、俺、ちゃんと『ごめんなさい』を言うのも忘れて、
『ありがとうございます』って、お礼だけ言って…誤魔化しそうです。」
公衆の面前で、結構な大喧嘩しておいて
仲直りできるかどうか、わからないのに
先に謝ってもらえると、淡く期待して…
甘えてしまう自分の姿を、予見している
「俺、ホントに…カッコ悪いですよね」
カッコ悪いついでに吐露しますが、もう一つ重大な謝罪案件?がありまして。
不可抗力?物理法則?としか言いようのない『接触事故』でしたが、あっ、あの…っ
監督達には『ナカッタコト』にして頂けた例の件が、もし世間様にバレてしまったら、
実は途轍もなくモッテモテなあの人のファンだとか、あの人自身の想い人?だとかに、
どうやってお詫びをしていいのか、まるで見当がつかない…いえ、違います。
この件を世間様に謝る自分の姿を、全く想像できず、むしろ脳が想像を拒絶しています。
「それだけは、イヤ…だな、と」
後生ですから、どうかあの件は御内密にお願いします。
赤葦はシュンと消沈しながら頭を下げ、そのまま猫又の太腿に顔を埋めた。
ずっと黙ってはいたが、ぽんぽん相槌であやし続けていた猫又は、
最後まで素直に喋り切った赤葦に、「子梟は本当にエェ子じゃのぉ」と再度微笑み、
赤葦からスヤスヤと穏やかな寝息が聞こえてくるまで、頭を優しく撫で続けた。
安心せい。たとえ世間様にバレても
『例の件』を謝らないですむ、秘策はある
子猫次第とも言えるが、儂には見えるぞ…
「ステキな言葉を交わし合う、すぐ先の子猫と子梟の姿が…脳内に、はっきりとな」
夢うつつでその言葉を聞き届けた赤葦から、ふわっと力が抜けた。
猫又は同じぐらい頬を綻ばせ、月夜に向かってそっと囁いた。
「いくつになっても、子育てと教育は、難しいもんじゃ…なぁ、闇路君?」
まさか、可愛い孫から…
色っぽい話を聞かされるとはな
「赤い糸…何処ぞにあったかのぉ?」
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猫梟合宿~一匹一羽(中編)~
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