猫梟合宿~大浴場の外~

「心通じ合う恋人ができますようにっ!」
「趣味を心ゆくまで楽しめますように。」


梟谷グループ合同合宿。
毎度お馴染みとなりつつある、居残り自主練&残業の超過勤務を、ようやく終えて。
黒尾と赤葦の二人は、これまたお馴染みになってきた、御褒美・深夜の大浴場独占へ。
今回は、待ちに待った森然高校。極地にぶっ飛びそうな心身をなんとか洗い清め、
浴槽の淵に並んで浮かび、魂も意識もはるか頭上どころか天空付近へ浮かべていた。

「今日も一日、お疲れさまでした…」
「おぅ。お互い、よく頑張ったな…」

お湯に浸かって『ぷっは~~~』以外では、二人で交わした会話は、十分間でこれだけ。
声が出せただけ、互いを労わり合える言葉が出ただけ、もう十分だ。
もしお星様達が上から見ていたら、きっとそう慰め、褒めてくれるはず。


(今日も、想定以上に、キツかった…)

少し前までは、風呂に入っている時…疲れている時ほど、悶々と思考のドツボに陥り、
リラックスと真逆の状態で脳をグラグラ煮たたせ、胃をシクシク痛めていた。
風呂場で考えすぎてしまう悪癖を、何とか断ち切る方法はないか?と、
先日この森然大浴場で黒尾に尋ねると、天に意識を飛ばす客観視の技を伝授してくれた。

それを毎日実践するようになったけれど、なかなか急に自分は大きく変えられない。
ただ、ほんの少し。本当に少しだけど、ちょっとした変化があったとすれば…

(ホントに、よく頑張った…今日の俺。)

冷静に自分の状況を俯瞰してみると、勿論足りないことばかりではあるものの、
自分のできる範囲で、精一杯頑張っている自分の姿に、自分で気付けるようになった。
自分を責めるばかりではなく、今の自分をそのまま受け入れられるようになった…かな?

お星様と比べる必要なんて、ない。
今の自分にできることを、淡々と。
ひとつひとつ、精一杯こなすだけ。

まさに、タスク・フォーカス。一球入魂の精神じゃないか。

(多分、俺は…これで、いいんだ。)

自省と自己嫌悪だけじゃない、自分への客観的な『視線』を得ることができたのは、
今の自分にとっては、まだほんの小さな変化かもしれない。
でもきっと、今後の長い人生にとって、この変化がなければならなかったんだ!と、
大きく頷くことになる予感?確信?は、現時点でも何となく仄かに感じている。

(オッサンになった頃…痛感してるかも?)


さてと、日課。
できるだけしょーもないことを、天から眺めながら、妄想してみる会。
まず一球目は、ストレート。十年後の毎週金曜晩、黒尾さんに何を御馳走になるか?

今日は、手を伸ばせば触れる場所に、妄想の助演(主演の俺にご飯を奢る役)がいる。
大浴場の天井から眺めると…弛緩し切った手足に、半分意識のない表情。
ぽや〜っとした顔周りに、長めの黒髪がゆ~らゆら。お湯の動きに合わせ揺蕩っている。

(…もずく。)

生のもずくは、ズルズルレベルが俺には高すぎるし、タレも酸っぱすぎたり、やや苦手。
でも、そのもずくに衣をつけて揚げ、藻塩をツンツンつけて食べると…激変。
きっとオッサンになったら、もずくの天ぷらだけで、最初の一杯を頂いてるはずだ。

(行きたいとこリスト更新。沖縄料理屋。)


「ミミガーのポン酢和え、下さい。」
「は?何だその、突然の飯テロは。」

「オリオンビールに合わせたい、肴です。」
「島豆腐の冷奴。あと、もずくの天ぷら。」

「今、黒尾さんに惚れそうな…衝撃をば。」
「まだ惚れてなかった事実に…驚愕だな。」

「はい?何ですかその、根拠なき自信は。」
「それが、奢ってくれる人に言う言葉か?」

「どうか俺の胃袋を、掴んで離さないで。」
「胃袋だけでいいのか?案外チョロイな。」

「じゅっ…十年後、期待しといて下さい!」
「なら俺は…料理の腕磨いて待ってるぞー」

「朝はご飯とお味噌汁。田舎沢庵と梅干。」
「十年待たず、十日以内に掴めそうだな。」


んじゃ、明日から俺は…
毎週金曜晩のサシ飲み&お持ち帰りの翌朝、味噌汁の具に何をいれるか?を、
毎晩風呂場で、の~んびり妄想する会を開催するとしようかな。

黒尾さんはそう笑うと、よっこいしょと腰を鎮めて湯船に座った。
そして、湯の中で俺の背を手で支え、浮いた俺を一旦座らせてから、
先に立ち上がった黒尾さんは、その手で今度は俺も湯船から引き上げてくれた。

「エスコート、ありがとうございます。」
「小さな優しさに、惚れ惚れしただろ?」

「大きなお世話、かもしれませんけど?」
「お前はもうちょい、俺に優しくしろ。」

ホントは十分後って言いたいとこだが、十年後まで猶予な。のんびり期待しとくぜ~と、
バスタオルを俺の頭に投げて寄越しながら、黒尾さんは自分のもずくをゴシゴシ。
その手をふと止めて、マジマジと俺を見ながら、神妙な声で呟いた。

「あ、悪ぃが俺…味噌汁にもずくはナシ。」
「今のであやうく、ズルズル落ちそうに…」

「ん?何か言ったか?」

いえいえ、何も。
いやいや、俺は一体、何を言おうと?

言えなかった言葉と、心に浮かびそうになった言葉。
聞こえなかったフリをしつつ、バスタオルの中でその言葉たちを反芻する前に、
脱衣所の勝手口外から、突然大きな声が響き渡ってきた。


『心通じ合う恋人ができますようにっ!』
『趣味を心ゆくまで楽しめますように。』


「っ!!?な、何だっ!?」
「そっ、外、でしょうか?」

脱衣所&大浴場の外は、涼しい風の通るコンクリート&芝生の小庭になっていて、
風呂上がり、キンキンに冷えた冷水機の水を紙コップになみなみと注いでから、
そこで夜風に当たって夕涼みをするのが、森然温泉のシメだった。
どうやら、そこに誰か先客が居た?入浴中に来た?らしかった。

おそらく、二人。さっきの声には、聞き覚えがある。
最高の夕涼みスポットを、俺達にコッソリ教えてくれた…あの飯テロなコンビだ。

「ブロッコリーと、タラコの声…だよな?」
「はい。小鹿野さんと強羅さん…ですね。」

ブロッコリーこと森然主将の小鹿野さんと、タラコこと生川主将の強羅さん。
共に梟谷グループを構成する4校の、当代中核メンバー…つまるところ、
音駒主将の黒尾さんと、梟谷副主将の俺を加えた、中間管理職仲間だ。

同じ都内のネコとフクロウほど、頻繁に(ほぼ毎週末)ご一緒するわけではないが、
4校全てが集まっての合同合宿の際には、4人で膨大な雑務を分担してこなしている。

(同病相憐れむ…お疲れさま仲間。)


俺が身だしなみを整え終わるのを確認してから、黒尾さんは勝手口を小さくノック。
チラっと顔だけ外に出すと、向こうから「おーう!」と、聴き慣れた二人分の声。
黒尾さんも「お~」と返事をしてから、一旦脱衣所に戻り、俺に両手でWピース。

(あ、何か…無駄に可愛い。)

…なんて思ったことは1ミクロンも出さずに冷水機に向かい、カップ4つを並べて準備。
まず2つに半分ぐらい注ぎ入れ、黒尾さんと二人で乾杯。風呂上がりの水分補給だ。
飲み干した各々のカップを左手に、新しいカップを右手に持ち、計4つを満タンに。
ちょうどいいタイミングで、外から扉が開かれ、右手のカップを二人に渡す。

「そうそう、それそれ!待ってたぞ~!」
「さすが赤葦、気が利くな。」
「いや、俺だっつーの。」

ブロッコリーとタラコ、そしてもずくの飯テロ主将ズは、軽口を交わし合うと、
俺を間に引き入れてから、静かにカップを夜空へ掲げ、軽く触れ合わせた。
先客達は一口飲んでカップを壁際に置くと、そのままゴロリと芝生に寝転がった。

やや窮屈な二人の間に入った俺と黒尾さんも、タオルを枕代わりに敷いて、ゴロリ。
両端に寝そべるお二人に合わせて、ゆっくり深呼吸しているうちに、徐々に目が慣れ…


「こりゃ、凄ぇな…っ!」
「星が、たくさん…っ!」

澄み切った空気の上に瞬く、満天の星空。
都内では見ることのできない、空を覆い尽くすほど数多の星々に、息を飲む。
森然で合宿する度に、こっちは星が多いな~とは思っていたが、まさかこれほどとは。

「お前ら、ものすごーい、ラッキーだぞ~」
「今夜はペルセウス座流星群の、極大期。」

ここはちょうど北向きで、月明りに邪魔もされないし、
ペルセウス座の向き…流星が生まれる放射点にもぴったり合っているそうだ。
だから、この場所に寝転がっていると、かなりの数の流星が見られるはず…とのこと。

「流星って、肉眼で見えるもの…ですか?」
「ここで寝てれば、見える…ホントかよ?」

どれがペルセウス座?星が多すぎて、どう繋げばいいのかも、さっぱりわからない。
流星群が周期的に出現することは、勿論知ってはいるけれど、遠い遠い宇宙の話…
知識としては知っているが、自分の目で見たことはない、オーロラ等とほぼ同じ存在感。

(サンタクロースとも、同類項かも。)

隣の黒尾さんからも、訝しがっている雰囲気がぷんぷん伝わってくる。
都会っ子共め、ちょっと黙ってろ…と、両端からは苦笑いの振動。

「深呼吸しながら、星明りに目を慣らす。」
「心を無にし、ただ、ぼ~っと見上げて…」

15分ぐらい、目を暗さに馴染ませるんだ
放射点の付近を、凝視するんじゃなくて
夜空全体を、ぼんやり静かに眺めてると
そのうち、流れ星が、通り過ぎてゆく…


…なるほど。
さっきの絶叫は、これだったのか。

「まさかの流れ星に、願い事…ですか。」
「おいおい。意外と…ロマンチストか?」

別に、お星様に叶えて貰いたいような願い事なんて、これといって特にない。
自分で叶えられるような望みであれば、成就すべく淡々と努力するだけの話だし、
お星様や神々に頼み込まなければならないような願い事など、分不相応では?

「そもそも、星が流れる間に、言えるか?」
「しかも、3回リピート?無理ですよね。」

黒尾さんも俺と似たような感想を抱いたらしく、大あくび。
俺もつられて、大あくび…目を閉じないままあくびするのって、難しい。

目尻に滲んだ生理的な涙を、急いで指先で拭い、視界をクリアにする。
この一瞬で、流星を見逃してしまったら、やっぱりその、ちょっと勿体無い気がするし。
隣の黒尾さんのシャツも、ゴシゴシ擦る動きにつられて、裾が俺の二の腕を擽った。

(風呂上がりで、体温高め?)

直接触れてはいないけど、Tシャツの袖が擦り合うほどの、いつもよりずっと近い距離。
黒尾さんの温もりが、こっちに伝わってきたみたいで、何だか…くすぐったさ倍増。
少し身動ぎをすると、小指の縁が黒尾さんの小指に触れてしまい、お互い盛大にビクリ!
スミマセン!と謝り、バっ!と手を離そうとした寸前、別の声に遮られた。


「別に、お星様に願い事だとか…そういうのとは、ちょっと違う?気がするな。」
「お前ら程じゃないが、俺らも割とリアリスト…神頼み?星頼み?するガラでもない。」

そうじゃ、ないんだよ。
流れ星に願い事をすることで、自分の中でぼんやり浮かんでいただけの『気持ち』が、
『言葉』というカタチになって自分の口から出て、それが自分の耳に聞こえてくるんだ。

あぁ、俺…
こうなりたいって、想ってたのか。
こんなこと、してみたかったんだ。
これが、俺の願い…だったんだな~

ただの曖昧だった『気持ち』を、自分が叶えたい『目標』として、明瞭に自覚する。
流れ星に『言葉』で願うことで、頭と心の中に、スーっと…光が走る、みたいな?

「曖昧な、想いを…自覚するために?」
「言葉にすることが…本当の目的か!」

「あぁ。これって結構、難しいことだろ?」
「こんな機会でもないと、できないよな。」

まさに、リアリスト的発想。
どんな自分になりたいか?や、どんなことをしてみたいのか?なんて、
本当にじっくり考え、自分と向き合わなければ、言葉という形にまでは到底できない。
それこそさっきの俺みたいに、リアリストを装い、『特になし』と思考停止してしまう。

ロマンとは対極とも言える、星への願い。
だが俺にとって、リアルに心の中に届く、願ってもないお星様達からの『贈物』だった。

「物凄く、勉強になります…っ」

俺にとって、木兎さんは勿論スターだ。
でも、木兎さんだけじゃなくて、俺の周りにはこんなにもたくさんの星々が輝き、
俺の中に『光』を差し込んでくれている…気付いていなかっただけだ。

(俺、本当に…ラッキーだ!!!)

今日、この場に居られて、良かった。
梟谷グループの中間管理職として、飯テロ主将ズと共に居られて、本当に良かった。

じわり…と、生理的とはちょっと違う熱が、目尻を潤しそうになってしまった。
夜空に目を凝らすフリをして、グっと目元に力をこめていると、
俺でも聞き覚えのある旋律の鼻唄が、両端から漏れ聞こえてきた。


「星に願いを、の歌詞…知ってるか?」
「後半は、こんなカンジ…らしいぞ。」

人は誰しも独り
哀しい夜を過ごしている
星に祈れば
淋しい日々を光照らしてくれるでしょう

「星が願いを叶えるとは、言ってない。」
「光照らしてくれるだけ、なんだよな。」

リアリスト通り越して、ロマンぶち壊しの現実に、唖然。目尻もスっと乾く。
ぽかんと(ツッコミ入れようと)口を開けた…瞬間。
ちょうど正面から、頭上を越え、頭の後ろの方に向かって。

『ーーーーーーーーーー………』


「…っっっ!!?」
「!…っっっっ!」

星々の間をまたぐように。
想像よりもゆっくり、音もなく静かに。
光が夜空を、長く滑って行った。

生まれて初めて見た光に、声も出せないほど驚き、息を飲むことすらできなかった。
すごく静か。なのに、胸の内に言いようのない衝撃が走り抜け、奥底まで光が差して。

(見えた…流れ星、見えたっ!!!)

願い事なんて、出てこない。
自分の声や言葉が、この感激をぶち壊してしまわないように。
溢れ出そうなものを堪えようと、無意識の内に指先と目に力を込めてしまったぐらいだ。

(また、雫が…っ)


「その瞬間。言葉なんて、ひとつも出てこない…だろ?」
「でも、光に照らされたと感じる…不思議な感覚、だ。」

「本当に、その通り…だった…っ」
「もうひとつ、見たい…です…っ」

心なしか、黒尾さんの声が震えていた。俺の声も、それに共鳴しているように聞こえた。
いや、力がこもったままの小指を通して…熱と共に、震えが確実に伝わってきた。

(ん?何か、握って…?)

小指の感覚を確かめる前に、ぱさり…黒尾さんの向こう側から、バスタオル。
俺と黒尾さんのお腹の上に、小鹿野さんが掛けてくれたようだ。
そして、黒尾さんとは逆側の隣に寝ていた強羅さんも、静かに上体を起こすと、
ポケットから何かを取り出し(多分、お夜食のお裾分け)、お冷カップの傍に置いた。

「もうひとつ、あともうひとつだけ…流れ星を待ちながら、自分の願いを考える時間。」
「この静かな時間は、物凄~~~っく貴重…今夜はじっくり、それを楽しむといいぞ。」

日々多忙な、俺達みたいなタイプにこそ
こういう時間って、必要なんだろうな〜
大人になればなるほど、不可欠に…


強羅さんは優しく、生川さんはぐしゃぐしゃと。
俺と黒尾さんの頭を撫で(掻き混ぜ)て、芝生から立ち上がった。
星々に向かって大きく伸びをすると、この場をお前らに譲ってやるよ~と、歩き出した。

「…あ、そうだ。」

業務の役割分担もあるし、ご近所の猫と梟ほど、一緒の機会があるわけじゃないけどさ。
黒尾ばっかりにベッタリじゃなくて、たまには俺達とも遊んで…頼ってくれよ?
黒尾は黒尾で、業務にかこつけて赤葦を独占しすぎ。俺達だって、赤葦を構いたいぞ。

「風呂場の天井からの客観視…しょーもない妄想タイム。」
「『ぷっは~~~~』の技を黒尾に伝授したのは、俺らだからな?」

それじゃあ…二人共、おつかれさん。
星に願いつつ…おやすみ、良い夢を。

勝手口の戸を閉め、電気を消して。
星々の光を強めてから、二人は音もなく去って行った。



「せっかくカッコつけたのに…受け売りだったこと、赤葦にバラしやがった。」

クソ、余計なコトしやがって。
そう言いながらも、黒尾さんは穏やかに微笑んでいた。
顔は見えないけれど、微笑みの心地良い波動が、俺の小指を揺らしていた。
その揺らぎが、頬にまで伝わってきて、俺の口元もほんのり緩めた。

「何かと何かを『繋ぐ』こと…黒尾さんの役目を、果たしたとも言えますよ?」

お二人から伝授された技を、俺にも繋いで下さり、ありがとうございました。
頭を下げる代わりに、ぺこり…小指で小さく会釈し、直接お礼を伝えてみたら、
どうってことねぇよ…と、向こうからも会釈が返ってきた。
そして、お互いに小指で会釈し合ったまま、黒尾さんが静かに言葉を紡ぎ始めた。


「梟谷グループの、合同合宿の間…」

俺らはいつも、膨大な雑事に追われて、二人で主に書類関係の残業をしてるだろ?
これぞ中間管理職の事務仕事!!ってカンジで、ヘロヘロになってるけどさ。
その間、同じ立場のブロッコリー&タラコの二人が、何をしてるか…知ってるか?

「???飯テロ、でしょうか?」
「それも、間違っちゃねぇな~」

これだけいろんな奴がいると、当然『合わない』ことが、多々多々起こってくる。
普段とは違う環境だし、疲れもイライラも溜まってるし、そもそも性格が合わねぇとか。
同じぐらいの歳の、同じぐらいの力の、ライバル同士。合う方がレアケースかもな。
俺達の見えないところで、あっちこっちが繋がる…を通り越し、ぶつかり合ってるんだ。

星と星が、衝突し合う。
これこそ、流れ星の正体だ。

そして、この『派手な繋がり過ぎ』を回避したり、緩衝したりするのは、
どう客観的に考えたって、俺と赤葦みたいなタイプには不向き…ツッキーの前例然り。

「黒尾さん、いらんこと言い過ぎですし。」
「赤葦のド正論も、火に油コースだろが。」

何でもかんでも、繋げばいいわけじゃない。人と人との繋がりなら、尚更な。
星々の距離を調整し、夜空全体に光を通し、グループ内に調和を齎すこと…
俺達にはできない、管理者としての仕事を、あの二人が担ってくれているんだ。

星の欠片でもいいから、俺も…
あの二人みてぇに、なりたいな。


流れ星のように、スー…と静かに出てきた、黒尾さんの言葉。
それに一番驚いていたのは、他でもない黒尾さん自身。小指が強く跳ねた。

俺は咄嗟にその小指を捕まえ、いつの間にか絡め合っていた小指を、夜空に掲げていた。


「その願いを、叶えるためには…」

今のあなたには、星々を繋ぐだけで精一杯。適性距離まで図るのは難しいでしょうね。
あのお二人のように、夜空全体を巡って数多の星達の調和を図るなど、とてもとても。
精々、ひとつぐらい…ご自分と繋がりそうな星との距離感を、図る?謀る?程度です。

「これから、頑張ればいいだけ。」

そう、例えば…
週末毎に会う度に、笑いながら美味しいものを一緒に食べて。
酔いつぶれてどちらかの家に上がり込み、そのまま昼ごろまで寝落ちして。
先に目覚めた黒尾さんが、お味噌の香りで優しく相手を起こしてあげる…
そんな努力を続けていれば、きっと十年後ぐらいには、叶えられるかもしれませんよ?

「もし本当に、そんな十年後が来たら…」

俺の願いも、ストレートに
言葉として出せますように

(…いや、そうじゃない。)


「ちゃんと言葉で伝えると…約束します。」

繋いだ小指を、ゆっくり振って
星空と流れ星に、誓いを立てる


「それなら俺は、砕け散る覚悟で…っ!!」

黒尾さんが何かを言いかけたところで、2つ目の流れ星が俺達から言葉を奪って行った。

そのまま静かに、夜空を見上げる。
繋いだ小指も、そのままに。




- 終 -




***********
※先日の大浴場

2024/08/12