風雲追求



「なかなか、増えない、な…」
「体重か?乙女にシバかれるで。」


昼休み。
木陰に寝転がり、ぼんやりスマホを眺めていると、真上から突然、北さん登場。
慌てて背を起こして頭を下げようとしたら、北さんの方が俺の横に座り、伸びをして寝転がった。

「さっきから独り、重い溜息吐いてたな。」
「え、そう…でしたっけ?」
「何や、無自覚か。一番タチ悪いやつやで。」
「すっ、すみません…」

別に、謝らんでもえぇ。
そう言ったっきり、北さんは空を見上げ、黙って雲の流れを眺めていた。
しばらくの間、一緒に空を見上げ…

   (あ、チキンナゲット雲、発見。)

思わずスマホを構え、パシャリ。
うん、なかなか悪くない。

「ぽかぽか、気持ち良さそうな…
   湯たんぽ雲、やな。」
「湯たんぽ?そう見えなくもないですね。」
「小判とか、草鞋でもえぇで。」

何で全部、民俗資料館の展示品シリーズ?
あ、北さんちの納屋とか倉に、フツーにあるものかもしれないな。
横縞が入った楕円っぽいものなら、大好物の豆腐ハンバーグでも良くないですか?
そう言うつもりだったのに、俺の口からは別の言葉がスルスル流れ出していた。


「なかなか増えないな…
   フォロワーも、いいねも、閲覧数も。」

最初は、行動記録か日記のつもりで、SNSを始めたんです。
道端で出会った草花とか、変わった看板とか、今みたいな空や雲の写真とか…
自分の目?心?に留まった面白いものを、何となく並べておこうかなぁと。
目立ちたいとか、大勢に褒めてもらいたいわけじゃなかった、はずなのに…

「何かのきっかけで、フォロワーが増えて、いいねを貰えて…凄く、嬉しかったんです。」

わかってるんですよ、勿論。
みんな『俺』を褒めてくれたわけじゃない。
芸能人でも何でもない俺自身に興味を持って、フォロー…追いかけてくれるんじゃなくて、
ただ、俺が載せた写真や情報が、ほんのちょっとだけ『価値』があった…
その人の『欲』を、ごくわずかに満たせたってだけなんです。

興味のある流行りのモノを撮っているから。自分の好きなコトを扱っていたから。
SNSに反応があったとしても、『俺自身』が認められたわけじゃない…

「写真を撮った俺じゃなくて、被写体の方。
   ツムサムを写しているから…いいね。」

何度もそれを自分に言い聞かせているのに、反応があると純粋に嬉しい…これはまだマシ。
それが貰えない時に、俺自身が価値のない存在だとみなされたように錯覚してしまうんです。

「俺の投稿、別に要らないよね。
   欲を満たせないムダなものを見せて…時間をロスさせて、申し訳ないよね。」

特に、自分の心を大きく動かしたもの…
チキンナゲット雲を載せたって、いいねと言ってくれるのは、片手でも余るぐらい。
大体いつも同じフォロワーさん…『けいじ。』って奇特な奴だけかも。

そんなわけで、時々、溜息と共に…
今までの投稿も、アカウントも、全部消してしまいたくなる衝動に駆られるんです。

「俺なんて、いなくなっても…」


「その『けいじ。』君には、あの雲…何に見えるんやろうな?倫太郎は、どう思う?」
「え?そっ、そうですね…
   ダイオウグソクムシとか、じゃこ天あたり?」
「俺とも、気が合いそうな奴やな。」

倫太郎がホンマに好きなモンを、ちゃんとわかってくれる…ふぉろわっさん?
友達が一人でもおって、良かったやん。たった一人でも、友達は大事にせなアカンで。

たしか、自分がフォローしとる人の投稿が、ズラズラ~と、リストに流れてくるんやろ?
人気者とか、企業さんの公式とか、友達のやつとか…流れを『追いかける』から、フォロー。

「あとは、おすすめとか、広告ですね。」
「なぁ、それ…
   ホンマに『追いかける』って言えるんか?」
「…え?」

追いかけるっちゅうのは、自分がその人や会社のモンが好きやから、
自分から自発的に『追い求める』のが、本来の姿やろ?
でもSNSは、自分から求めるのは、最初に『フォローする』って決めてポチる時だけで、
その後は一方的に流れてくるのを、ただ受け止めるだけ…
自動的?強制的?に、追いかけさせられとるだけに、俺には見えるんやけど。

「おすすめや広告と、ほぼ変わらんやん。」
「たっ、確かに…っ!」

むしろ、そっちの方が『欲』を強烈に刺激してくれて、価値ある情報かもしれへんな。
あとは、誰かや何かを夢中で追っかけてる『キラキラした自分の姿』が、好きなんかも?


ふぉろわっさんが、たくさんおらんでもえぇ。
いいねの数も、閲覧数も、どうでもえぇやん。
わざわざ流れを止めてポチリひと手間…自発的にいいねを押してくれる。
有名人でも広告でもない、ましてや欲を満たすようなネタも出さん倫太郎を、
ホンマの意味で追っかけてくれる人が、一人でもできたんなら…

「SNS、やってよかったな。」


そろそろ、午後の授業が始まるで。
自分から追っかけるのが、本来の姿…『勉強』も同じなんやろな。

北さんはそう微笑みながら、俺の手を引き起こしてくれた。
そして、並んで校舎へ戻る途中、一度だけ足を止めて再度頬を綻ばせた。

「倫太郎のツムサム写真、一番喜んどるのは、アイツら自身…イケメンツインズや!って。」
「それはそれで…癪なんですけど。」

次は、もの凄っいブサイクに撮ってやります!
そう力を込めて宣言すると、北さんは楽しみにしとるで〜と、手を振って教室へ戻った。




- 終 -




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No.002 追いかける

2023/07/21 ETC小咄