非日常日

「………」
「………」


今宵はクリスマスイブ。
パエリアを作ったり、ちょっと高価なシャンパンで乾杯したり、御贔屓店のケーキも頂いた。
ちゃんとそれなりなクリスマスパーティを、思いっきり楽しんだ…みんなと一緒に。

でも、自宅に戻り二人きりになると、一気に『ハレ』から『ケ』に返り、いつも通りの食後風景…
同じ部屋に居ながら、各々が好きなことに浸る、まったり消化タイムに突入。
今日も今日とて、昨日の続きの本(雑誌)を手に、ごろごろし始めた。

   (…って、いやいやいや、違ぇだろ!)
   (今日は…今夜もコレは、マズいっ!)


一緒に暮らし始めて、ずいぶん経つ。
もうすっかり二人の家庭が骨の髄まで馴染み、波風の立たない『凪』な日々を、揺蕩っている。
これぞまさに、自分達が求めてやまない、山も谷もない平穏無事な生活。心から満たされている。
お互いにも人生にも全く不満はないし、今この瞬間に死んだって、幸せだと全力で断言できる。

   …とはいえ。
   とはいえ、だ。

元々が地味でおカタく質実剛健なタイプ。実際のところ、実年齢にそぐわないぐらい…
二人が出逢った高校時代から既に、老夫婦っぽい熟成感を醸していたのも、事実。
とはいえ!さすがに『ケ』ばっかりなのは、冗談抜きで脳にヨくなさそうというか、その…っ!

   (クっ、クリスマスぐらいは、せめて…なっ?)
   (パっ、パートナーらしい、何かこう…ねっ?)

一度だって喧嘩したことはないし、勿論、冷え切っているわけじゃない。
周囲がドン引きするほど、相変わらず相性抜群の超絶仲良し夫婦だ。

でも、相性と仲が良すぎる『ド安定』なカンケーだからこそ、日常とは違う『ハレ』の日に弱い…
なかなか二人の雰囲気を、イベントモードに切り替えられないという、贅沢な悩みがあるのだ。

   (食後2時間…喋ってません。いつも通り。)
   (何て切り出せばいいか…全然わかんねぇ。)

   本当はそろそろ、風呂に(一緒に)入って、
   相手の隙を狙い、枕の下に恒例の贈物を…
   クリスマスカード(恋文)を、入れないと。
   極秘のプレゼントも、どこに置けばいい?

本を眺めてはいても、文字も中身も頭に全然入ってこない。
チラリと時計を見るフリして、相手の様子をコッソリ覗き見…のタイミングが、ドンピシャ。
とことん相性が良すぎる自分達に、顔を見合わせ苦笑いするしかなかった。


「………。あー、なんだ、その…」
「………。えー、あれです、ね…」

「サっ、サンタさん、今…どのへんだろうな?」
「おっ、おそらく…うわの空、あたりですか?」

「あ、クソ!上手いこと言いやがった!」
「俺自身、ちょっとビックリしてます。」

いつも通りの他愛ないやりとりで、ふわり。
場の空気と頬を緩め、四肢をグググ~~~っと伸ばして…足の指先が、ちょんと触れ合う。

「今年一番、心臓がドキっ!と跳ねただろ?」
「えぇ。そっちの心音も、聞こえましたよ?」

「初々しさ満点…全然変わんねぇな、俺ら。」
「これぞ万年新婚夫婦…という説も、あり?」

この雰囲気…頼む、そっちが何とかしてくれ!
そう押し付け合うように、『そっち』の方へ少しずつ脚を伸ばしながら、
足首、ふくらはぎ、ひざ、太腿…足先でつんつん擽り合い、身を捩って距離を縮めていく。

「そろそろサンタ服に、着替えて欲しいのか?」
「出逢った頃から、サンタ色を着てますよね?」

「しゃーねぇな。今夜だけは…貸してやろう。」
「今、お召しの服なら…借りてあげましょう。」

   精一杯伸ばした指先で、ジャージの裾を引く。
   その手を引き寄せ、上着を肩から少しずらす。

「着替える、ついでに…よっと!」
「お風呂、入りますか…ぅわっ!」

引き上げる力が強すぎて、勢いよく立ち上がってしまい足元がふらり。
それを咄嗟に支えて…風を装いながら、しっかり両腕と手指を絡め、寄り添って歩き出す。
久々に触れた体温に、ホッと一息…を誤魔化すように、肘で脇腹をツンツン突き合う。


「全く、いつまで猫を被り続けるつもりですか?この…助平。」
「子猫服まで貸した覚えはねぇんだがな?この…ムッツリが。」

   あぁ、もうダメだ。
   ほっぺのニヨニヨを、止められない。

何年経っても、いくつになっても、相変わらず似た者同士な二人が、愛おしくてたまらない。
最愛のパートナーのために、今宵ぐらいは勇気を振り絞って…『ハレ』の日を共に愉しもう。


「ホントーに世話の焼ける伴侶だろ?…京治?」
「ひたすら可愛いばかりでしょ?…鉄朗さん?」




- 終 -




**************************************************


2023/12/24 ETC小咄