「あ、研磨さん!ちょうど良いトコに!」 就寝時間ギリギリまで、人の少ない秘密の場所でのんびり過ごし、 眠れる獅子達?を起こさぬよう、足音を殺して合宿所の雑魚寝部屋に戻って来たのに、 その獅子達は猫の集会真っ只中…しまった、もう1クエストやって来れば良かった。 大あくび&目をこすり、眠くてたまんない風を装ったけど、お構いなし。 リエーフと芝山が、俺の隣に来て正座(なぜか)…ちょい質問!と、許可する前に発言し始めた。 「ウチで一番モテるの、誰ッスか!?」 いや、さっき居残りシバき…自主練の後、木兎さんに尋問されたんスよ! フクロウで一番モテるのはトーゼン俺だけど、ネコは一体誰なんだ!? 別に、今現在ing形じゃなくても、将来絶対モテること間違いナシな奴、教えろ〜!って。 「木兎さんらしいね。元気そうでなにより。」 「何スかその、死んだ魚のような目…」 ま、とりあえず、その場で俺が勝手に答えちゃったら、さすがにマズいかな〜って思って、 明日朝、教えます!って木兎さんには言って、ウチにこの件を持ち帰って来ました! で、今みんなで話し合ってたんスけど…先輩方のことはイマイチわかんなくて。 だから、ウチのコトを一番観察してる研磨さんから見て、 将来性を含めた、ネコで一番モテる奴…ぜひ教えて下さい! 「この通り…おなしゃす!」 ペコリと頭を下げる、コーハイ達。 しょーもない話だけど、ネコ全体に関わる問題を持ち帰って来たのは、悪くない判断。 ウチだけの雑談なら完全無視できても、これはフクロウ全体にも即時知れ渡る話… 下手に答えて面倒に巻き込まれるよりも、これを機と捉えて利用する方が断然いい。 そもそも、木兎さんに捕まったのなら、逃げ場なんてあるはずない。 (使えるものは、猫の手でも…使うよ。) 仕方ないね…と、小さくため息を吐く。 すると、猫ならぬ狸寝入りしていた面々も続々と起き出し、ほとんどが集会に加わってきた。 興味津々におヒゲをヒクつかせる顔を見回し、マジモードで会議をスタート。 「ウチで将来、一番モテる奴… そんなの、コイツで確定だと思う。」 まずはリエーフ。 木兎さんに聞かれた時、とりあえずテキトーに答えようとしたのは…誰? 「え…っと、く、黒尾さん、かな?」 あの人、髪型は論外としても、顔はまぁ悪くない方だし、背も平均よりずっと高いし、 スポーツマンだから、筋肉質でイイカラダなのは間違いない…外見は合格ですよね~ んで、中身の方と言えば、腹黒で油断ならないカンジがすっごい危険なんですけど、 実態としては、面倒見がいい兄貴肌…フトコロに入れた子猫にはベタ甘い、優しい人です。 基本、地味で仕事熱心な質実剛健型なんで、恋人にするには面白味がないかもだけど、 将来性を見据えたら、なかなかの安定株…まぁ平均値以上にはモテるかなぁ〜? 「ってなカンジで、黒尾さんって言っときゃ、とりあえず大はずれじゃなさそう?…と。」 「うん…悪くない見立て、だよ。」 さすがは俺のコーハイ。 何がさすがかと言うと、『大はずれ』じゃないのに『即答は避けるべし』と見立てたところ。 フツーに考えれば、クロと答えておけばほぼ問題ないのに、それをしなかった。 「リエーフは『将来性』という言葉に、引っかかりを感じた…そうだよね?」 「っ!?は、はい…っ!」 いつも通り残業中で、ここにクロは居ない。 エンリョせず言ってごらん?と視線で促すと、コーハイ達は唾を飲み込み、小声で答えた。 「面倒見が良すぎて、仕事熱心すぎるから…」 「将来…『家庭』には、不向きかなぁって。」 黒尾さんは、やっぱり凄くモテると思います。 だから、強く求められたり、拒絶する理由が特になければ、フトコロに入れて可愛がるはず。 そういう面では、一時的に黒尾さんにデレッデレに甘やかして貰えて、満足するかもだけど… 「結局、すぐフラれそうで。」 「仕事と私、どっちが大事なの?的な…」 黒尾さんから、仕事とか策謀とか、何かに尽力する目的?を、奪っちゃダメだと思うんです。 目的を果たすために、表でも裏でも地味にコツコツ、執拗に頑張り続けるのが、生き甲斐。 それと同時に、結婚…家庭を営むことは、現実問題としてかなり難しいと、俺は思ったんです。 「モテるから結婚はする。でも、相手のことを慮って、早々にお別れするコース。もしくは…」 「仕事に没頭…自分で何でもデキちゃうし、特に必要にかられないまま、独身貴族コース。」 というわけで、少なくとも10年先の、将来的な視点からじっくり考えた結果、 黒尾さんはウチで一番モテるとは、一般的には言い難いんじゃないかと、俺達は考えました! 黒尾さん、生意気言ってごめんなさい! 入口付近の畳まれたままの布団に向かって、リエーフ達はペコリと頭を下げた。 その頭を、後ろから夜久さん海さんがわしゃわしゃ…さすが俺らのコーハイ!と褒めた。 「モテる…人気者であることと、結婚…生活を共にすることは、全くの別物なんだろうな。」 「俺や木兎あたりは、きっとプロ選手になる…モッテモテの超絶人気者枠だろうけどさ、 一緒に暮らすパートナーとしちゃあ、か〜な〜り〜厳しめだよな?」 俺の見立てだと、研磨は勤め人としては難しいだろうけど、それ以外で大成しそう… おそらく金銭的には、寿命の短いプロスポーツ選手よりずっと『将来性』アリのモテ系だ。 でも、コイツが他人と生活を共にできるかっつーと、俺ら以上にハードル高そう… 「あ、無理。」 「ですよね〜」 ここで、大事なことを言っとくよ。 結婚とは、現行法で定められた家族関係…共同生活システムのひとつ。 生活していくカタチは、多種多様。その中で、男女のつがいを一単位としたもの。 産めよ増やせよ…と、システムを作った国家にとって、制定当時に都合が良かったものが、 いまだに現行システムのひとつとして、残ってるだけの話だからね。だから… 「どんな生活スタイルが幸せなのかは…」 「人それぞれ。みんな、違う。」 「共同生活が不向きな人も、いて当然。」 「将来性がある、イコール、安定した結婚生活を送れる、じゃない…」 「幸せのカタチも、人それぞれ!」 そう。 だから、結婚生活を選ばなくても、幸せ…楽しい人生を送る道なんて、いくらでもある。 法律が定めた『都合の良い家族関係』だけに、将来性があるわけじゃない。 「結婚…法律婚をすれば、各種特典・法的保護が受けられるというだけだからな。」 「自分が…自分と大切な人達が幸せなら、それで人生万々歳だろ!」 「システムに、囚われなくてもいい。」 とまあ、離婚専門法律家みたいな嘆き…世間様の仰る一般常識とは異質の話は、おいといて。 ごく一般的な将来性、即ち異性ウケという意味での『モテ要素』を列挙してみると… ・経済的安定 ・爽やか好青年 ・真面目な努力家 ・謙虚で素直かつ柔和 ・高身長かつ運動神経抜群 ・老若男女に愛されるピュアさ 「イケメンかつ、イクメン…女性に優しく、子どもと心を通わせることができる男。」 「私と、私の分身(子ども)を愛し、安定をもたらしてくれる…(私にとって)将来性がある人。」 「凄い贅沢というか高望みというか…男としてはキツい以外の言葉が出て来ない、です。」 「そんな優良物件、易々と手に入るわけ…その辺に転がってるわけ、ないですよね〜」 あははは…と、顔を見合わせ苦笑い。 ウチのボス猫・黒尾でさえ、この『条件』を満たすのは難しいというのに。 それ以外に誰が、都合の良い男もといモテ要素を満たせると言えるのだろうか? 天を仰ぎかけた面々に、研磨は再び断言した。 「ウチで一番モテる奴は、ほぼ確定してる。」 今はまだ幼さの残る顔立ちだけど、それが抜けた10年後は、整った精悍な面構えの予兆アリ。 運動神経は折り紙付。あの翔陽に引けを取らないなんて、ウチでダントツのフィジカルだし、 あの翔陽と非言語コミュニケーション可能…きっと乳幼児や宇宙人とも、意思疎通できるはず。 素直で心優しく、まっすぐな努力家なのは、俺達全員が熟知してるよね? 「え、それって…っ!」 集会場の隅で『まんまるこんもり』し、穏やかに上下する布団に、視線が集まる。 もしアイツが保育士あたりになろうもんなら、最強のモテっぷり… おチビさん達の『はつこいのひと』になるだろうし、保護者達からも大人気! いつの間にか『(ひとっとびで)二児の父』コースも、リアルにあり得るだろうね。 介護士や看護士さんとかだったら、転がり込んでくるのは…養子縁組&遺産かもしれないよ。 「これだけ猫が大騒ぎしていても大爆睡できる、ポテンシャル無限の大器…犬岡走。」 「まさかの、犬岡…っ!」 「でも、言われてみれば…非の打ち所がねぇ!」 「よく見りゃ寝顔も、凄ぇ可愛く…意外と造作も、整ってやがる!?」 「文字通り『(ガチムチ)ワンコ系』を、地でイケそうな逸材じゃねぇかっ!!」 …さてと。 犬岡がおそらく将来的にモテるのは、ほぼほぼ間違いない。 こんなナイスガイ、なかなかいない。ウチの宝と言っていい。 そんな犬岡を大事に育て、彼が幸せになれるように、俺達がすべきこと…芝山、何だと思う? 「はい!犬岡が変な奴に利用されないよう…妙なのに引っかからないよう、ガードします! あと、料理好きになるよう俺達で仕向けて特訓させ…『スパダリ』を目指します!」 素晴らしい。それでこそ、俺達のコーハイ。 夜久さん達から御褒美・もみくちゃグルーミングをもらい、照れ笑いする芝山。 その素晴らしい慧眼。お前だって間違いなく、将来有望株なんだから…ね? 「愛する仲間の幸せのために、全身全霊でサポートする。それが、猫という尊い生き方。」 それじゃあ、リエーフ。今日の集会のシメ。 明日、木兎さんに言うべきことは、何? 「はい!それは、もちろん…」 まずは、モテ系最強称号『ワンコ系スパダリ』の可能性が一番高いのは、犬岡走。 おチビさん達の憧れとして、ご老人達の愛玩対象として…ほのぼのストーリーはマスト。 もし保育士さんコースなら、ママだけじゃなくシンパパとの秘かなムフフも激ウマウマ!! 創作汎用性の高さという点でも、モッテモテ間違いなしっ! 「どうぞ、エプロンからチラつく上腕二頭筋と、笑顔で尻尾を振る姿…ご想像下さいませっ!」 それから、もう一つ。 一般的な将来性…家庭的安定という視点から見れば、モテ系とはちょっと言い難いかもだけど、 ホントのホントに優しくて、頼れる俺達のボス・黒尾さんが優良物件なのは、揺るがない! 俺達は、どんなカタチであれ、黒尾さん自身がホントの意味で幸せになって欲しい。だから… 「黒尾さんとタメ張るぐらい地味な堅物で、一緒に腹黒い策謀を愉しみ尽くしてくれる… 戦友(パートナー)になれそうな逸材(キワモノ)が偶然にもフクロウにいたら、どうぞよしなに♪」 …と、このチャンスをきっかけにして、あの堅物同士をそろそろ何とかしませんか〜?って、 木兎さんはじめとするフクロウ達に、ネコの総意としてそれとな〜くストレートに伝えつつ、 真横で聞くはずの『逸材』さんに、(隠してるつもりの)想い人は、フリーかつ狙い目ですよ〜と。 いやもう、正直なトコ… (叶わぬ恋と思い込んでる)あの人を逃したら、冗談抜きでマズいんじゃないかと。 膨大な業務を二人で楽しくこなしてるとか、どんだけ仕事の相性良いんスか!?って。 あの二人が本気で組んだら、バレー界を裏から牛耳るぐらい、軽くやってのけそうですよね。 まだ俺達はガキなんで、実感としてはよくわかんないですけど、 お互い『戦友』と呼び合えるほど、仕事?生活?を共謀?共闘?できそうな人なんて、 一生で数えるほどしか出会えない…それが男女なら、結婚システムを利用するだけなのかも? 実際、家族(夫婦)経営の個人事業主なんて、その最たる例じゃないっスか。 万人からモッテモテじゃなくたっていい。 フォロワーだとかいいねだとか、たくさんなくてもいい。 もちろん、世間一般的な将来性とかも、どうだっていい。 ごく自然に『二人が楽しめそうな将来』が思い描ける人と、幸運にも巡り会えたのなら… 「どうか、その縁…大事にして欲しいです。」 あぁ、俺は… 俺達は、とんでもない勘違いをしていた。 ウチのコーハイ達は、とっくに覚醒した…立派な獅子じゃないか。 (コイツら、ホントに…面白いじゃん。) パイセン達からイイ子イイ子と毛づくろいしてもらいながら、うつらうつらし始めた子猫達。 その末恐ろしい圧倒的センスの予感に、年長猫達は息を飲んで視線を交わし合う。 「俺らも、うかうかしてらんねぇな。」 「コイツらにカッコ悪いとこなんか…」 「パイセンとして、見せられないな。」 可愛いコーハイ達のためにも。大切な猫仲間のためにも。 俺達がまず、すべきことは… 「最愛のボス猫を、幸せにする。」 「猫は幸せになるべき存在だと、体現させる。」 「それじゃぁ、猫の集会(第二部)…作戦開始!」 - 終 - ************************************************** 2023/07/19 ETC小咄

