猫梟合宿~黒尾&赤葦&研磨&木兎~

「おーーーい!そこの猫2人!
   内緒話するから、コッチに耳…集合っ!!」


梟谷グループ合同合宿。
食事と入浴を終え、巣に帰ろうとしていた猫2人こと、黒尾と研磨。
食堂脇のホールに差し掛かるよりかなり前に、大声で『コッチ』に呼ばれた。

「木兎が…内緒話?」
「できるの、木兎さんに?」
「無理でしょうね、木兎さんには。」

木兎の言葉に、黒尾と研磨は呆れ顔。
ホールの奥から近付いてきた赤葦と共に、耳を塞いで『NO!』を表明した。

「念のため言っとくが、内緒話っつーのは、ささやく系の声でするもんだぞ。」
「木兎さんの口、アッテネーター(音量調節器)…ついてたっけ?」
「一応ありますよ。『大』『特』『爆』…ささやか系ではありますが。」

お前らのおクチこそ、ミュートにした方が良くねぇかっ!?と、木兎は特よりの大声で喚き、
俺が言いたかったことは、コレだっ!と爆音を轟かせ、『かんじれんしゅうちょう』を取り出した。

「『囁く』って字を…覚えたかったんだよ!」


「口が1に、耳3つ!来週のテストで出るから、思い出に刻んで覚えようとしたんだ。」

ただ単に、漢字を記号?として記憶するよりか、意味とか語源?を知った方が、覚えやすい…
んでもって、意味だけよりも、誰かとの思い出の方が、ず~っとキオクに残るんだってさ!
だから、ここで『囁く』をみんなでやってみて、大騒ぎして楽しんだ思い出を作ろうと…

「口元に耳を寄せてひそひそ内緒話の象形文字ごっこまではいいけど…大騒ぎは囁くの逆じゃん。」
「確か、元々『聶』で、口はなかったはず。それに聶は、削ぎ切った耳を集めて揃える象形だ。」
「この由来や語源をじっくり考えると、とても楽しい話には…耳を塞ぎたくなるでしょうね。」

ひそひそひそ…
猫猫梟が3つで、陰険腹黒狡猾悪巧み?もしくは木兎光太郎君へのお説教か?
なるほど、よ~っくわかった&覚えたぞ!

「お前らの口が3つ集まったら…
  『品』はなさそうな会話、ってことだな!」

へぇ~、同じ字が3つ集まったやつを、『品字様(ひんじよう)』っていうらしいぜ。
孤爪・黒尾・赤葦の男3人だと『たはかる』…謀る(たばかる)ってのも、モロに見たまんまだし、
お前らの心が3つで…『うたがう』だってさ!漢字って奥深いな~!

「猫じゃなくて犬3匹なら絶対『ケルベロス』!羊なら多分『眠たい』で、牛は『肉だく超特盛!』
   あっ!合宿終わったら、帰りにみんなで牛丼食いに行こうぜ…って、どうしたお前ら?」

木兎からの思わぬカウンターに、猫猫梟が絶句している間に、木兎は着々と記憶を定着…
絶対に違う!やつだけに『つむじかぜ!』『なまぐさい!』『ひしめく!』と訂正を入れてから、
舌3つ・言3つ・辛口(㖖)3つ…早口毒舌でしゃべりまくって話を戻した。


「つまりですね、『囁く』はひそひそと誰かに話すこと…相手(耳)に向けて、小声で話します。」
「似た言葉に『呟く(つぶやく)』があるが、これは独り言…本来は、誰かに聞かせるもんじゃねぇ。」
「独り言だったはずのツイートが、爆音拡散するためのツールになってるのは…凄い逆説ですね。」
「秘め事の二次創作を、全世界に向けて大公開。これぞ木兎の内緒話ってやつかもしれ…痛っ!?」

さすがにソレは、辛口が過ぎるよっ!と、研磨は黒尾と赤葦のほっぺを抓ると、
「木兎さんみたいな真っ直ぐな人には、内緒話は向かないってコト!」と、話をまとめに入った。


「『玄』は奥深い。黒尾と苦労と玄人…『赤黒い色』だって。まさに、この二人っぽいよね。」

だから、この策謀大好きな赤黒いおクチ達に、『囁く』の思い出を作ってもらおうと思う。
木兎さんでも絶対忘れない『呟く系の囁く』を、今からココで、ガッツリ実演させるから。

「えっ、ちょっ、待っ…はぁ!?」
「何を囁けば…わかんねぇよっ!」

突然の無茶振りに、玄コンビは動揺。
コソコソと慌てて研磨に大文句を耳打ちするも、研磨は全く聞く耳持たず、勝手に話を進めた。

「俺の言う通りに、すればいいだけ。」

クロはただ目を閉じて、状況を想像しながら聞いてればいいよ。赤葦には、俺がレクチャーする。
耳元にそっと囁かれたい言葉ランキング第1位(孤爪調べ)は、コレ。はい、コッチに耳…貸して。

「                             。」

「…???え、それだけ?」
「そう。絶対、大丈夫。」

戸惑う赤葦の背を押し、黒尾の元へ。
若干ビクつきながらも、研磨に言われた通り目をギュっと閉じて待つ黒尾の肩に手を添えると、
赤葦は黒尾の耳元におそるおそる口を寄せ、邪魔な髪をそっと指先で避けてから、囁いた。


「………?っ、ーーーーーっ!!!」

赤葦に囁かれた黒尾は、一瞬首を傾げ…
数秒後、ドン!と火が点いたように赤面すると、耳を押さえて走り去って行った。

「ぅわっ!?く、黒尾さん…な、何で???」
「赤葦にソレを囁かれる『状況を想像』した…」
「状況?………っ、ーーーーーっ!!!」

予想だにしなかった黒尾の豹変に、赤葦は呆然。
その理由を研磨に訊き、反芻…後、黒尾と全く同じ反応で口を押さえ、反対側へ走って行った。


***


「なっ、何だったんだ、今の…間違いなく一生の記憶に残る、激レア大赤面だったけどさ???」

一部始終を見ていた木兎は、キョトン。
なぁなぁ、赤葦が言ったやつ、俺にもコソっと囁いてみてくれよ!と、研磨に耳を寄せた。
研磨はニヤリと笑って快諾。木兎の耳に手を添え…ポソっとな。


「おはようございます。」


「おう、おはよう!…へ?それだけ???」
「そう、コレだけ。」

どんな赤黒~くて、奥深~い言葉かと思ったら…あ!目を閉じて、状況を想像、だったよな!?
よし…うん!明日の朝、合宿所の食堂で合って、いつも通り…???

「いや、別に、フツーのアイサツだろ。」
「フツーは、ね。」

でも、あの苦労人コンビは、全く別の想像をした。
耳元にコソっと、赤葦(黒尾)に朝の挨拶をされる(する)のは、一体どこで、どんな状況なのか…?
リアルな想像(妄想)の結果が、ドン!と大赤面。今ので、はっきりわかっちゃったよね~?

「あの二人が、お互いをどう…想ってるか♪」
「他人様には公言できねぇ、呟く系…だな♪」

グッジョブ!と、木兎と研磨はハイタッチ。
そしてすぐに両手の人差し指をクロスし、ムフムフとニヤつく口元を必死に抑えた。


「しばらくは、俺達二人の…内緒だな!」
「これぞ封印系…『X』な話、だよね!」




- 終 -




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No.012 囁く

2023/11/05 ETC小咄