猫梟合宿~中間駅にて~
お渡ししたいものが、ございます
今週末、合同合宿もありませんが
どうにか、お会いできませんか?
「まず、こちらがマネさん&闇路監督から。3年間お世話になりました、と」
部費から支出(大変お手数おかけしました料)なので、返礼不要だそうです。
その代わり、次の合同合宿でお酌しに来い、との御指名が入っていましたが。
「次にこちらが、木兎さんからです。黒尾さん分のノルマです」
定期的にカードを大量に集めてまして、そのオマケのココア味ウエハースです。
チャック付保存袋にしか見えませんが、真ん中に可愛いシールを一生懸命貼ってました。
「そして最後にこちらは、木葉さん&猿杙さん&小見さんトリオより」
手作りのチョコナッツクッキーです。味は自信をもって俺が保証しますよ。
何と御三方のノルマ分ウエハースを使って、リメイクした傑作なんです。甘すぎず美味。
ラッピングもメッセージカードも、もちろん全て自作。本当に器用な御三方です。
「以上で、配達業務は完了です。御足労下さりありがとうございました」
「いえ、こちらこそありがとうございます。御手数おかけして恐縮です」
昨日の夕方、折り入ってお願いがあると、珍しく赤葦から電話。
急な話で大変申し訳ございませんが、何とか明日の土曜に時間をつくって欲しい、と。
(明日の、土曜って…っ!!)
あの赤葦が、わざわざ『この日』を指定するなんて、余程のコトだろう。
いやまさか、そんな、あり得ない!いやっ、でもっ、可能性は全くのゼロじゃないかも?
電話を切った直後から、正直に申し上げますと、期待と期待と期待で脳内大暴走。
眠れぬ夜を悶々と過ごし、不安と不安と不安に包まれつつ、互いの家の中間駅に集合。
だが赤葦が右手に提げていた、期待よりもはるかに大きな紙袋に、不安の方が圧勝。
駅裏の公園に着くと、いつもよりはるかに不愛想なツラで、淡々と『業務』遂行された。
木陰のベンチに座り、形式上は同業他社さんとの打合せ風に、ごくごく丁寧にペコペコ。
だが季節先取りのぽかぽか陽気とは裏腹に、二人の間にはキンキンに冷えた隙間風。
(………はぁ~~~???)
えーっと、今日は『例の日』だったよな?
その当日、しかも休日に呼び出しといて?
いつも通りどころか、ぶんむくれ顔でか?
(冗談も大概に…ん???)
腹の底から湧き上がるドロドロを必死に抑えながら、紙袋の中をチラリと覗くと、
胃腸薬風ギャグ商品と、にゃんこシールだらけの保存袋、器用に包まれた梟シール付袋、
それとは別に、赤やピンクのキュートな柄をした小箱が、数個入っていた。
(っっっ!!!もしかして…!!)
『期待>不安』に切り替わる、ある可能性を思い当たった俺は、
ドクドク逸る心臓を鎮め、表情筋を全力で硬化させたまま、努めて淡々を装って尋ねた。
「他にも、何か入ってるみてぇだが?」
自分でもわかるほど、声が揺れて掠れて。くしゃみで語尾をわざとらしく誤魔化す。
すると、もうちょい隠せよ!とツッコミしたくなるほど、苦虫殲滅顔でそっぽを向いた。
「むしろ、そっちが本題なんですっ!」
合同合宿とか練習試合によく来てた、ネコのツンツン髪の主将さんに…渡して下さい!
赤葦君、凄く仲良いでしょ?よく一緒に話してたよね?だから…お願いっ!!
「だ、そうです!モテモテですねー!」
ゼ~~~ッタイにこの日に遅れちゃダメだ!って、厳命され(泣きつかれ)てしまい、
モッテモテで本日ご多忙が確定な方に、寸暇を作って頂いたのは、本当に申し訳なく!
スウィ~トな時間を奪ってしまったことは、どうお詫びしていいかわかりませんが、
何とか約束を取り付けて、恐る恐る配達業務に来たものの、予想以上に大激怒のご様子。
「そんな顔じゃ、百年の恋も醒めますっ!」
えぇ、お気持ちは十分お察ししたいですけど生憎ですが俺にはそんな経験は皆無、
そこまでぷんぷんに不貞腐れるなんて想定外で、こっちが逆ギレしそうですよっ!!
貴方に贈物だなんて、恐ろしくてできない…渡さなくて結果的に大正解だったんですね!
「俺の気持ちも、少しはお察し下さい…っ」
とはいえ、俺自身も、未だ…
自分の気持ちを、整理できないまま
何でこんな…なのか、理解不能ですがっ
ぷぅ~~~~~っと、音が出るほど頬を膨らませながら首を傾げる、拗れっぷり。
いろんな感情が混ざり合って、心底困惑している姿に、胸がきゅ~~~~~っと。
(理解…できて、しまったっ!!!)
赤葦の、じゃなくて。
焦がれて焦れて、拗れに拗れまくった…俺自身の気持ちに。
(今、ここで、はっきり自覚するとか…っ)
あまりの鈍感さに、羞恥で脳が弾けそうだ。だがそれ以上に、頬が緩んで緩んで。
限界まで首を赤葦から逸らし、花粉だか何だかを防ぐべく、手のひらで口元を覆い、
聞こえるか聞こえないかギリギリの声を、手のひらの隙間から恐る恐る零した。
「あーっ、心の底から期待して聞くが、この中に、赤葦からのを、どさくさ紛れに…?」
「っ!?そんな知恵を回す余裕があれば、こんなことには…先に教えて欲しかったです」
「木葉達と一緒に、調理実習した…4人からの連名ってことにする策は、考えたよな?」
「家庭科赤点は論外だと、却下され…昨夜、母にも頭と腹を抱え、盛大に笑われました」
「俺に渡さなかったものは、今どこに…?」
「冷蔵庫の中に、忘れたフリして…っ!!」
拗ねちらかし、半ば投げやりになっていたおかげで、いつもよりむしろ素直な応答。
途中からようやく、自分の気持ちと失態、そして俺のいう『期待』も理解できたらしく、
いやまさか、そんな、あり得ない!いやっ、でもっ、可能性は全くのゼロじゃ…と、
どこかで聞いたようなセリフを、わなわな声を震わせて、あ、咳で誤魔化しやがった。
(ホンット~に、似た者同士だよな~!)
息の音は聞こえないけど、互いの動悸ははっきり聞こえそうなほどの、静寂。
ありったけの勇気を振り絞って、横にそろりそろりと腕を伸ばし、そっと手に触れる。
「今日も明日も、ずっと暇してる。
だから、今から…集荷にお伺いしても?」
手を握り返してくれるまでの、約2.14秒。
俺には百年ぐらいの長さに感じた。
- 終 -
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2026.02.14