接続触発





接続触発




「オッス、オッス〜!」
「あっ、ヤッホー!!」
「黒尾さん、お疲れ様です」

座席も確保しやすい、リーグのイベントがあるぞ〜と、半年前の呑みで黒尾がポロリ。
その場で行きたい!と素直に手を挙げた漫画家と、視線を泳がせただけの担当編集者を、
普及事業部は来賓として御招待(し、結果的にプチコラボ風に)した、今回のイベント。
開始前、VIP様方の坐す来賓席へ、関係者と共に御挨拶に訪れていた…が、
宇内先生&赤葦のコンビだけ、そこには見当たらなかった。

見慣れたリュックや、おにぎり宮の袋は置いてあるから、来場してはいるだろうが…と、
キョロキョロ周りを見渡すと、上方の柱影から宇内が手招きしていた。


「何でこんな、暗いとこでコソコソ…」
「いやほら、こんな若輩者が並んでるの、明らかにおかしいじゃん?」
「宇内さんの身バレを防ぐため、です」

来賓エリアは、コート全体が悠々と見渡せる、最上段ど真ん中スペシャル一等地。
そこだけロープで仕切られており、ご丁寧に『来賓席』と書かれた紙まで下げてあった。
試合が始まってしまえば、後ろの席など目に入らないが、席に着く前は違う。
入口反対側の奥に座る人は、体育館最上部の通路を歩いていく…来賓席の真後ろだ。

どう見てもオエライサンじゃないし、著名なOB選手でも、芸能人でもない。
パッと見は一般人なのに、何故『来賓』として特別扱いされているのだろうか?と、
通りすがりに覚えた、何気ない違和感から推測(邪推?)すると、
早々に『コラボ関係者』という可能性が、消去法で浮かび上がってくるおそれがある。

「宇内さんの姿形は、機密事項ですので」
「ムダに美少女顔だからね〜」
「自分で言うなよ」

美少女顔云々はともかく…と、赤葦は真顔で流し、今度は苦笑いでコートを見下ろした。
「思いっきり『関係者』が、悪気なくバラす可能性の方が、高いですからね」


イベント開始前でも光り輝くコートの上では、出場選手達が軽くアップをしている。
方々から送られる声援に対し、手を振って応える選手もいて、実に朗らかな空気感だが、
幼稚園の運動会の如く、選手側が顔見知りに「ヤッホー!」する…規格(企画)外もいる。

「猫又カントクー!あ、孤爪も!ヤッホー!来てくれてありがとうーーー!事件」
「えっ!?木兎さん、コヅケンさんの極秘来訪を、バラしちゃたの!?」
「木兎にゃ全く罪はねぇ、関係者大爆笑…じゃなかった、笑えねぇ騒動だからな」

あかーーーし!ヤッホー!ぐらいなら、甘んじて受け入れるフリしてスルーするが、
あ、宇内センセも!ヤッホー!と続けられてしまうのは、冗談抜きで困るのだ。
そんなこんなで、試合開始までの間は、来賓席から少し離れた通路の壁際、
柱の影に隠れるように、漫画家&担当編集者コンビは、身を潜めていたというわけだ。


「改めまして、この度はお招き下さり、ありがとうございます」
「いえいえこちらこそ!後出しでコラボして頂けて、毎度ながら感謝しきりです!」

通行人から宇内の姿を巧妙に隠しつつ、黒尾と赤葦はぺこぺこと定型文を贈り合う。
そのザ・ビジネス!な二人に、宇内は思わず吹き出した。

「ヤダもう、よそよそしい!なんか、そわそわしちゃうじゃん」
「よそよそしいって、他所ですから当然です。宇内さんのウチとは違いますからね」
「確かに、『他所行き』の装いは、お互い久々に見た気もするよな〜」

ほぼ毎週金曜日、黒尾は赤葦と打合せ(&直帰)のため、宇内家に来訪。
勝手知ったる何とやらで、合鍵を使って入り、風呂に入り、置きジャージで居間に入り。
打合せを終えた瞬間、宅飲み(&お泊まり)に突入するのが、ここ数年のルーティンだ。

「俺、下手したら…黒尾さんの寝癖じゃない頭の方を、見慣れてるかもしれない」
「俺は高校時代以上に、黒尾さんと毎週末…客間で合同合宿気分ですよね」
「宇内家客間の押入、俺と赤葦のモンばっか…自宅より多いかもしんねぇ」

顔を見合わせ、苦笑い。
だがその目には、笑いではない切実さが、滲み出していた。

「久しく呑んでない…2週間もオアズケだよ」
「突発的コラボの準備と…」
「イベント準備で、おおわらわだったから…」

 コレ終わったらさ
 また三人で、一緒にグダグダ…

ポソリと黒尾が零しかけた言葉を、何故か宇内は遮るように身を乗り出し、
「そろそろ始まりそうだけど、いいの?」と、首をちょこんと傾げて黒尾に尋ねた。


「俺の仕事は、実質、もう終わってんだ」

スター達が光り輝く舞台を整えて、その場へと繋げていく。
俺自身が光を浴びることは、ない…場が光ってる頃には、暗い所から高みの見物か、
舞台裏で照明を操る作業を、淡々とこなすぐらいが、俺の性には合ってる。だから…

「今も昔も、光の直近を付き従って歩ける…赤葦は凄ぇなぁ〜って」

 あまりにも、光が眩し過ぎて
 俺にはきっと、耐えられない

呑みダチだけに見せた、穏やかな微笑み。呑みダチも初めて触れた、黒尾の本音。
宇内は「キョトン?」とさらに首を倒し、赤葦は目を見開いて首を振り…微笑み返した。


「それは、大きな勘違い、だと思います」

かなり過大とは言え、黒尾さんが俺を評価して下さっていたことは、素直に嬉しいです。
もし高校時代に聞いていたら、一瞬だけ舞い上がり、すぐ腹黒警戒態勢だったでしょうが。

どういうわけだか、俺は『光』に振り回される性分なようで。
光のごく直近に居ながら、光の当たらない場所…舞台袖もしくは下で這い回っています。
黒尾さん達が整えて下さった舞台まで、スターが駆け上がる道を作るのが、俺の仕事。
付き従って歩くだなんて、とてもとても。舞台に引き上げた後、俺がしているのは…
暗がりの中、コードや資材をまとめたり、歩きやすい道を整備する程度のことですから。

「会場内で最も暗い場所が…舞台袖です」

 光と手を取り合い、共に光を浴びる
 そんな道は、俺には…見えませんよ

勿論、俺も黒尾さんと同じく、光の当たらない自分の道を行く…生き方が、好きですから。
できるだけ光の当たらない所を選び、我が道を質実剛健に築く喜びも、なかなかです。

「こんな自分が、嫌いじゃないですから」


卑屈さや欺瞞もなく、卑下することもなく。
柔らかい表情で、自分の生きる道を誇らしいと語った赤葦に、宇内と黒尾も頬を緩めた。

「俺もさ、多分…二人と同じだよ〜」

今をときめく超売れっ子漫画家・スター宇内天満大先生が、まさかの発言。
はぁ〜?と、遠慮のカケラもなく睨め付けた黒尾と赤葦に、宇内はちょっぴりビビりつつ、
「俺も同じ!」と、強い口調で言い切ると、二人の間から手を伸ばし、光を指差した。


「『宇内天満』は…光を受けない」

他の漫画家さんのことは、わからないよ。これはあくまでも、俺の話だけど。
宇内天満は、赤葦京治や黒尾鉄朗と同じく、暗い場所…どん底で這い回ってる一職人だよ。
光の当たる場所へ俺が導きたいのは、俺自身なんかじゃなくて、俺の生み出したキャラ達。
メテオアタックのみんなを、キラッキラに輝かせたいなぁ〜って、思ってるんだ。

「だから、俺の姿形は…暗闇が良い」

もし仮に、俺自身が光を受けて、喝采を浴びたいタイプだったら、
そもそもクソしんどい週刊連載なんてせず、適度にSNSにババーンとUPして、
いいねとか拡散とかをいっぱい貰って、イベントも出て、承認欲求を満たす方を選ぶよね。

「俺、そういうんじゃ、ないから…」

キャラを光らせるため、どん底でゲェゲェ吐きながら、赤葦さんと一緒にネーム考えたり、
もうホントにムリ逃げたい〜って、黒尾さんにベソベソ泣きつきながら、這い回って。
暗い中、苦しみ抜いて。やっと良いものができて、赤葦さんと涙ながらにハイタッチ!
作品を世に出したら、誰よりも早く真夜中に黒尾さんから「面白かった〜」のメッセージ!

光輝く場所じゃなくて、真っ暗闇の中で手を取り合ってきた二人から認められるのが、
ただの宇内天満にとっては、一番嬉しい…満たされた〜!ぶわぁ〜!ってなるんだ。

「その瞬間、暗い中に…光がスーっと、ね」

 周りから見れば、ただの真っ暗
 でも、歩いてる自分には、仄かに見える
 俺にとっては、輝いてる…素敵な道だよ


「宇内、さ…っ!」
「っーーっっ…!」

感極まり、声を飲み込む二人の肩を、宇内は背後からぽんぽんと叩くと、
ぐっと二人の腕を引き寄せ、真ん中に割り込むように両腕を絡めながら、背伸びをした。
声をひそめて「だから、さ…」と囁き、内緒話用の耳を二人から集め、ぽそぽそ呟いた。

 自分自身が光の中を颯爽と歩く姿や
 誰かと共に進むのを想像できないのなら
 発想を逆転させて、こう考えてみない?

 たとえ暗がりの中、もがき苦しんでいても
 この手を掴んでいれば、自分は大丈夫!
 そんな相手が、もし居るとするならば…?

「暗闇じゃないと、わかんない…かもね?」


宇内はそう言うと、トイレ行ってくる!と、音もなく二人の背後から抜け出した。
その直後、重く大きな『ズン…っ』という音と共に、会場内の光が全て消えた。

「ぅわっ…っ!!」
「っ…、ぁっ!!」

驚嘆の声を全て飲み込めないまま、咄嗟にギュっと握り締めた…暗闇の中の、直近な手。
触れた手から伝わる熱に、全身の力がふわっと抜け、安堵のため息がほわっと聴こえた。
その音が、自分と直近の口から出た『和音』だったことに、二人は同時に気付き、
今度はじわじわ…上がる熱と震えを、触れ続けている場所から伝え合った。

 (つまりは、その…っ)
 (そういう、こと…っ)


華やかな音と歓声に彩られながら、光の舞台へ飛び出してくる、選手達。
その眩しさに目を細めながら、黒尾はごく微かな声で、赤葦の耳元に囁きかけた。

 コレ終わったらさ
 また三人で、一緒にグダグダ…の、前に
 呑みの買い出しがてら、俺ら二人だけで…

「お散歩でも…どうだ?」

 繋ぐ力を、少しだけ抜いて。
 誘うように、きゅきゅっと握る。

「内緒話…ぜひ、喜んで」

 繋ぐ力を、大きく抜いて。
 頷くように、ぎゅーっと握り返した。









- 終 -




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2025/04/27分 BLEND小咄移設