接続不覚④・前編


「まさか、こんなことに…なんてね。」


俺の名前は…
ここで言ったって、「…誰?」「あぁ、いたような気も…?」という反応が、普通。
今を輝く妖怪世代、割と有名どころのレギュラーだったとしても、端役中の端役。
もしグッズ展開しても、各校2名の代表枠には絶対に入らないだろうし、
妖怪世代全体選抜だと、ウチのチームすらそこに入るかどうか、すこぶるアヤシイ。

宮城のバレー界では、名門。常に優勝候補として名をはせてきた、歴史あるチームだ。
1つ上には、日本を代表する大エースや、世界的ショコラティエになった人もいるし、
上にはVリーガーが2人、下にも1人。同期は医学部在学中のバリバリエリート。
公務員になった人もいるけど、公務員試験だって難関。キラキラバンドマンでもある。

(各々、がんばってるよね。)

俺はというと、上京してのんびり大学生をやったり、居酒屋でバイトしたり。
バレーボールも続けてないし、おおむねフツーの若者ライフを送っている、一般庶民。
仲間達の眩い活躍を遠目に眺めて…特に誇らしくもないし、惨めに感じたこともない。

(俺は俺、他人は他人。)

バレー推薦で高校入って、全国行くぐらいだったとしても、大学でやらなくてもいいし、
そもそも高校卒業後、大学に行くかどうかだって、その都度考えればいいと思う。
セオリー通り?王道?があっても、たとえどんなに自分が希望する道があったとしても、
その道に進めるかどうかは、未知数。想定外の事態だって、いつ起こることやら。

(災害事故怪我病気…誰にでもあり得る。)


リードか、ゲスか。
進学か、就職か。白か、黒か。
好きか、嫌いか。敵か、味方か。
事前に決めず、その都度、自分で考える。

自らの道を信じ、一途に突き進むことも、大事。それはそれで、凄いことだと思う。
でもそれは、固執しているとも言え…柔軟性を欠くガチガチ頭は、考えてないのと一緒。
周りの状況を見て、それで対応を決めるよりは、ずっと楽で怠惰な態度かもしれない。

流れを見て、身の振り方を決める?
それって、どっちつかずの日和見主義。
自分がないだけ。言い訳でしかないだろ。

そう言われれば、そう。自分で考えない場合ならば、ぐうの音も出ない。
でも、どちらにも偏らず、全体を俯瞰して。その都度、自分でしっかり考えるなら…?
しんどいけれど、毎度毎度、考えて考えて。少なくとも、怠惰ではないと思う。

(バランスを取る…フツーって、難しい。)


できるだけ『真ん中』でいようという考えに至ったのは、元々の性格も勿論あるけれど、
そうならざるを得なかった状況に、やむなく追い込まれたことが大きい。
現実を受け入れ、それに応じて適宜、考えて動くことしか、できなかったから。
そして、そんな俺の在り方を、恩師がはっきり肯定してくれたことが、決定打。

絶対的エースでも、守護神でもない。
どんな状況でも『真ん中』を保てる…
お前の代わりを見つけることこそが、
俺にとっちゃあ、頭の痛ぇ大問題だ。

「『中庸』は、途轍もなく難しいもんだ。」

どちらにも極端に偏らず、過不足なく、中立で調和が取れている状態、それが中庸だ。
可もなく不可もなく、突出したものもない。どっちつかずでフツーの俺を、
あの厳しい監督が、チームになくてはならない『真ん中』として認めてくれていたのだ。

(お前は常に、中庸たれ。)


バレーも、進学も就職も。
高校卒業時点では、どれかを選ぼうにも選べなかったから、考えた末、選ばなかった。
そして、状況に合わせつつ柔軟に対処しながら…そういう対応をし続けられるように、
『中庸』に最も通じてそうに見えた分野の資格を、まずは取得してみた。

(俯瞰して…中立・バランスを取る仕事。)

その策は、自分にとってプラスに働いた。
性格にも合っていたらしく、資格の勉強も凄く面白かったし、もっと学びたくなった。
監督のツテで事務所に所属し、資格者として仕事を請けるようになって数年経ってから、
さらに学を広げようと、大学の通信教育課程に入学し、独学を続けているところだ。

本当に、自ら勉強したくなってから…
手に職をつけてから大学へ行ってもいい。
順序なんて別に決まってるわけじゃない。

同じようにバレー関係のツテを辿って来た、バイトの大学生…1つ上の部下ができたり、
その部下がバイトを辞めて卒業&就職後、別のバレー繋がりで仕事を依頼してきたり。
バレーから距離を置いて『真ん中』を保っていた割には、いまだに繋がっていたりする。

(真ん中だったから、繋がった…?)


そんなこんなで、元部下以外で深い繋がりがあるバレー関係者が、元青城の及川さん。
お互いにビックリしたけど、この界隈はやたら狭いし、ご縁なんてそんなものかも。
現役時代からは考えられないほど、密に連絡を取り、アルゼンチンにも何度かお伺い。
阿吽の相方を除けば、妖怪世代の中では、俺が一番、及川さんに近いかもしれない。

(表立っては、まるで見えないけど…ね。)

そんな及川さんから、仕事以外の話が来た。
先日、帰省中に会った時とはまるで表情の違う、深刻かつ緊急の要件、とのこと。

『お願い。君にしか、頼めないんだ。』

そして、及川さんからの電話の直後、真逆方面の友人から、久しぶりの電話。
珍しく飲みの誘いでも、お前んち泊めてくれよ~でもない、慌てふためいたもの。

『頼む!今はお前だけが、頼みの綱!』

今度は、阿吽の対極・岩泉さん側。
岩泉さんご本人とは、ほとんど繋がりはないけれど、その義弟?舎弟?とは、近い。

(『兄弟』とも仲良しだけど、契りは…ね)

試合中、チームメイト達よりも早く、俺の異変に気付いてくれた、恩人。
背中しか見えない仲間よりずっと、ネットを挟んで顔を合わせ続けていた…伊達の二口。
ネットの下に崩れ落ちる俺を咄嗟に支え、大声で「タイムっ!!」と叫び、
青根の腕に俺を預けながら、俺の手を握り締め運んでくれたのを、微かに覚えている。
二口とは、それ以来の付き合い。同い年の中では、一番仲が良い友人だ。

地理的にも、時間的にも、阿吽双方からの距離的にも。
中庸の位置に繋がっていた俺が、この騒動の『接続点』のひとつになろうとは。

「ホント、ご縁って…不思議だよね。」


これから新たに繋がろうとしている相手は、同じ妖怪世代・同い年のバレー関係者。
とは言え、向こうは全国クラスのビッグネーム。グッズ展開したら八割方メンツ入り。
今はバレー界の命運を裏側から握る、実は影のフィクサー的な存在、かもしれない。

(さて、そろそろ…ご登場かな。)

二口から送られてきた、対談時の集合写真。真ん中にちょこんと座っていた小さいのが、
我らが宮城の伝説、元祖小さな巨人・宇内先生だとすると、俺の知らない顔が…赤葦。

最寄駅から彼の職場への道中、コンビニ前。
道行くおびただしい人の中、頭ひとつ飛び抜けた長身が、彼に間違いなさそうだ。
連れ立って歩いていたもう一人に、コンビニ隣の喫茶店を指差しながら、笑顔。
そこで待ってて下さいと、申し訳なさそうに言い、連れは気にせんでエェでと手を振り…

その手を、俺は横から掴んだ。




*****




「すみません、ちょっと…休憩しません?」
「ん?どしたん?疲れたか?」


北信介&赤葦京治の、都内近郊お稲荷さん巡りツアー改め、ウキウキ☆恋人おデート。
都内JR各線及び、東京メトロ&都営地下鉄や都営バス等が、一日自由に乗降可能な、
東京フリーきっぷ(おとな1,600円)を利用し、あちこちそぞろに散策。
まるで街歩き周遊謎の如く、行く先々で謎を解き(歴史考察し)、名品を食べ歩き。
だが、歩計が2万歩に近付いたあたりで、赤葦がタイムを要求した。

「19,243歩…っ!?普段の3倍です!」
「行く、伏見…お稲荷さんにピッタリや!」

「しんすけさん、お元気ですね…っ」
「お百姓さん、ナメたらアカンで。」

一日の平均歩数、25,000歩!と胸を張り、けいじくんはそこに座って待っとり~と、
北は藤棚の下に赤葦を残し、パタパタ~と自販機へ小走りで向かった。


(何か、可愛い人…だな。)

出会ってまだ、2日半ぐらい。
でも、出会ってからずっと、一緒に居る。

(聞いていたのと、全然…違う。)

宮兄弟の北さん偏愛には、恐れ多い存在という、畏敬よりも畏怖の念が見え隠れ。
大好きなのは間違いないけど、根っこの部分に本能的な恐怖があるというか。
すなリンにも、同じ感覚。『ちゃんと』した北さんに、敬服しきり。

きっと、稲荷崎主将・北信介が、その権力?立場?を笠に着て、強圧的だった…
なんてことは全くなく、他人よりも自分にとことん厳しい凛とした姿に、
自然と首を垂れていた…感服するしかない、といった方が適切かもしれない。

(『ちゃんと』し過ぎて…怖い?)

完璧さゆえに、人間味が薄くて。
永久不可侵の、遠い…神的存在。

この『遠い視線』には、既視感がある。
ずっと憧れていた『凄い幼馴染』と、その幼馴染からの幻想に囚われる…月島&山口。
『俺らの凄いボス・北さん!』という固定観念に、宮兄弟は囚われ続けているのだろう。

(そして、しんすけさん自身も…)


部活の上下関係でもなく、古くからの幼馴染でもない。つい最近、知り合ったばかり。
俺としんすけさんの間には、社会的な立場や深い繋がりなど、何もなかった。
偶然『コネクション!?』プロジェクトを通じて接続しただけの、ニュートラルな関係。

何の絆も、柵(しがらみ)もない。絆は元々、動物を繋いでおく綱。柵はそのまま、囲い。
今までの繋がりがなかったからこそ、そういったものに何ら囚われることなく、
ごく自然体で、素直に…穏やかでのんびりした時間を、二人で楽しめているのだろう。

(こういうの、はじめて…だな。)

一緒に散歩して。とりとめのない話をして。美味しいものを食べて飲んで。
二日酔いの頭を抱えながらゴロゴロしたり、漫画喫茶で大騒ぎしつつ乙女ゲーム攻略。
恋人同士といえるのかどうか、よくわからないけれど、居心地も気分も、すこぶる良い。

(心が、ふわっと…)


パタパタパタ…
遠くから、小走りの足音。
鳥居のところから、ひょこりと顔を出し、不安そうにきょろきょろ周りを見回している。
どうやら、プチ迷子?ここですよ~と手を振ると、パッと表情を輝かせてこちらに…

「けいじくん、お待た…ぅわぁっ!!?」
「あぶないっ!!」

両手いっぱいにペットボトルと缶を、何故か3つも抱えて走って来たはいいが、
藤棚手前のコンクリート階段で躓き、あわや!のところで、何とか全身で抱き留めた。

「けっ、けいじくん!大丈夫か!?」
「それは、こっちの台詞ですよ。」

ほんまゴメン!ナイスキャッチありがとな!
あんな、道路向こうの自販機で、けいじくんのお茶買うて、次に自分のやつ押したら、
何か急に、ピロリロピロリロ~!チャンチャララ~!って、自販機が大騒ぎし始めた!
あっちもこっちもピカピカ光りよるし、壊してもうたか!?って焦ったわ。

お札食べさすとこの下が、めっちゃチカチカしとって、『5555』…当たりかいっ!?
もう1本プレゼントしてくれるって、急に言われても困るやん!?3本もいらんて!
こんな時に限って、周りに人っ子ひとりおらん!どうぞ~ってお裾分けできんし、
選ぶ時限装置はじまるし、けたたましいの止まんし、わたわたしてもうて、そんで結局…

「一番端っこの、おしるこ…咄嗟に。」
「おっ、おめでとう、ございます…っ」


俺を見上げながら、手振り身振りを添えて、必死に『わたわた』な出来事を語る。
そのビックリ具合と焦り、予想外の幸運、そして、プチ迷子と段差躓きで…

(しんすけさん、おめめ…キラッキラ!)

アクシデントの際に、その人の本性が垣間見えるというけれど、
これはもう、ズルいとしか言いようがない…ピュアピュア、可愛すぎる。
おしるこ、半分こしような!あ!さっき商店街で買うた煎餅、絶対いるやつやん!と、
リュックの中をがさごそする姿を、俺は吹き出さないよう、必死に堪えて眺めていた。

(あー、もう、凄い…楽しい!)

ちょっとした失敗を恥ずかしがる、わかりやすい照れ隠し。ほっぺに海苔、ついてるし。
きっと今の状態が、しんすけさんの『素』なんだろう。
何にも囚われない『北信介』さんに、全身の力と頬が、無意識のうちに緩んでいく。

(その姿を、少しでも見せてあげれば…)


『コネクション!?』プロジェクトでは、深くて濃い繋がりばかりを、見続けてきた。
でも、人間関係って、それだけじゃない。繋がりがほとんどなかった相手と出会ったり、
繋がりがなかったからこそ、別の魅力を知ることができたり。これは、大発見だ。

「何や?嬉しそうに…優しい微笑みやん?」

驚いたような、ホッとしたような。
不思議そうな表情で再度俺を見上げ、ふわりと微笑んで首を傾げた、しんすけさん。
そちらこそ、という言葉は出さないまま、俺も自然と微笑み返していた。

「しんすけさんと、繋がれて…
繋がってなくて、良かったなぁと。」

「っ!!?
…おっ、俺も、そう…思う。」

何故か一瞬、大きく目を見開いて。
しんすけさんはふにゃりと相好を崩し、大きく頷いてくれた。




- ④・後編へGO! -




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2024/11/21