「勉強不足で大変申し訳ありませんが… 今回の核?がどこなのか、教えて下さい。」 「頼むから、はっきり言ってくれよっ! 今回も全っ然、面白くないですね…って!」 俺は宇内天満。職業・一応プロの漫画家。 現在連載中の漫画の原稿料等で、とりあえずは食っていけるようになったから…プロ、かな? 「これ以外に食っていく手段がないだけ説もありますが、家計は何とか回ってますよね。」 「副業するヒマがないぐらい、鬼担当がガンガン仕事回してくれて…涙が零れそうです。」 「その感涙に全力でお応えできるよう、更なるお仕事をお持ちしましたよ。」 「その眼鏡…度、合ってる?俺の憂鬱極まりない青ざめた顔、ちゃんと見えてますか〜!?」 「勿論です。〆切突破して深夜にネームを送られても大丈夫…ブルーライトカット付です。」 「それ、他人の顔色は見えない仕様ってことですよね…いや、薄々気付いてたけど。」 とりあえず、そのまるっきり徹夜明けな土気色の顔を、あと15分以内に何とかして下さい。 お風呂を沸かしてありますから、さっさと入って…一張羅のジャージも出しておきました。 「顔色…見えてるじゃん。」 「ブルーライトのみ、カットですから。」 口では淡々と毒を吐きながらも、手は優しく俺の皺くちゃフリースを脱がせ、背をトントン。 俺を風呂場に押し込んでから洗濯機を回し、部屋の掃除を始めたのは、担当編集者サマ。 熱望してやまない文芸へ栄転するため、俺を売れっ子にして実績を積もうと、 日夜努力と研鑽と献身を惜しまない…仕事と頭と舌の回転率が完全比例する、凄腕さんだ。 「宇内さん、急須の蓋はどこですか?」 「ぅひゃぁっ!?勝手に開けるなって!」 「まだ湯船に入ってなかったんですか?あと3分後に出る予定なのに…で、蓋は?」 「昨日…割っちゃいました。。。」 「っ!?そういうことは、昨日の内に言って下さいよっ!御客様が来るというのに…っ!」 「ごごごごっ、ごめん!でも、その代わり…御客様が大好きなお煎餅、買っといたからっ!」 「それは当然、俺も買って来てます。もういいですから…湯船で15だけ数えて出て下さい。」 「ら…ラジャーっ!!」 はい、しっかり水分取って…そこの資料に目を通しておいて下さい。 基本的に、宇内さんに拒否権はありませんが、打ち合わせ内容は把握しておくことを推奨… あとから「聞いてないよっ!」とゴネるのは、貴重な時間と俺の忍耐力の無駄ですからね。 「ところで、髪…かなり伸びてきましたね。邪魔くさいので、縛っておきましょう。」 「いててててててっ!引っ張りすぎ!そんな高い位置で、ポニーテールとかやめて!」 「御客様がじきにお越しですから、きちんと身だしなみを整えて下さい。迅速に。」 「そもそも、あの人はもう…『御客様』ってカンジじゃないでしょっ!?オシャレ不要っ!」 風呂上がりに冷えたジャスミン茶を出し、俺に資料を読ませている間に、 ドライヤーで髪を乾かし、ついでに玉が2つ付いたゴムで縛り上げながら、 これから御客様と打ち合わせする概要を説明…(痛みでほとんど聞いてないけど。) とにかく、漫画週刊誌の編集者というよりは、秘書だか執事だか…どこかの副主将だか。 二日と開けず俺を見張りに…じゃなかった、公私ともに徹底的にサポートしに来てくれる、 油断も隙もありゃしないし、油断も隙も与えてくれない、途轍もなくデキるスーパー助手だ。 だがこの担当、世話を焼いてくれる割に、実は不器用…なかなか上手く髪をまとめられない。 しかも意外とガサツだしセンスないし、痛さに俺もジタバタ大暴れ。 「じっとしといて下さいよ!もう…時間がありません!あと1分で御客様が来ちゃいます!」 「ヤダってば!下手すぎるしっ!これ以上やったら…大事な御客様に言い付けますよっ!?」 「なっ…何を、言い付ける、おつもりで…っ」 「あれれ?何か言い付けられたら、困ることでも…ありましたっけ?」 「っ!?と、特に、ありませんっ!」 「ですよね〜♪俺が一番、知ってますよ♪」 ここが好機!と、ようやくこじ開けた隙を逃すまいと、俺が反撃に出ようとしたら、 予定より15秒早く、本日の『御客様』登場…大あくびしながらリビングに入ってきた。 「あぁ~、今週も疲れた~」 「あっ!おおおっ、お疲れ様ですっ!!玄関までお出迎えせず、大変申し訳ありませんっ」 「おーおー、相変わらず仲良しだな~。髪に手を挿し込み熱烈抱擁…お邪魔しちまったか?」 「ちちちっ、違いますっ!これはただ、鬱陶しいモジャモジャを絞め上げてるだけですっ!」 モジャモジャこと俺の頭をドンと突き放した担当サマは、御客様にペコペコ頭を下げると、 恐縮???しまくるそのウネウネくせ毛頭を、御客様は優しくナデナデ…っ!!? 「ココ、寝癖で跳ねてるぜ?…お疲れサン。」 「っ!?お気遣い、ありがとうございます…」 寝癖を貴方が語りますかっ!?って、ココはツッコミを入れるトコのはずなんだけど、 そんな余裕は微塵もないらしく、おおおっお茶を入れてきます!と、ダッシュ…その、寸前。 「あ、ちょい待った。コレ…土産だ。」 「いつもすみませんっ!!…って、やけに重たいですね?」 「今日は御茶漬でも御茶請でもなくて、御茶を入れる方…急須と湯呑のセットだ。」 「えっ!!?」 ココに引越してから、そんなに経ってない…食器類も、先生&担当ペアセットしかねぇだろ? 毎週来る俺にも、湯呑とコーヒーカップがバラバラだし、今後も御客様が来た時に困るよな。 今日たまたま、いいカンジの急須&湯呑5個入セットを見かけたから… 「遅くなったが…俺からの引越祝だ。」 「あっ…ありがとう、ございますっ!」 「いっ…いろいろ、すみません。。。」 いやいや、貴方は引越準備から本体まで手伝ってくれたし、御祝に食器棚買ってくれたし、 ウチの家中の照明器具もカーテンも、貴方がぜ~~~んぶ、取り付けてくれましたよねっ!? っていうか、ウチに打合せに来るたびに、『御祝』を言い訳になんやかんや持って来てるし。 …という、俺の真っ当なツッコミは、口から出せるわけもなく。 「お茶入れるの、俺も手伝うぜ♪」「では、早速このセットで頂きましょう♪」と、 キッチン…対面式カウンターの向こう側に、二人は並んで歩いて行った。 「おぉっ♪俺専用のお煎餅…買っといてくれたんだな。さすが赤葦…ありがとな。」 「いえいえっ♪黒尾さんのお煎餅…今は俺も、すっかり虜になってしまいました。」 俺が買っといた同じお煎餅と、蓋のない急須を布巾で隠しながら…見て見ぬフリしながら、 二人は新品の御茶セットからシールを剥がし、の~んびり、ゆ~っくり…お茶の準備を満喫。 「相変わらず…『仲良し』なことで♪」 俺は二人に気付かれないようポソっと呟き、髪を緩やかに結びながら、ニヤつく頬を隠した。 俺の担当編集者・赤葦京治と、毎週金曜に打ち合わせに来る御客様・黒尾鉄朗。 この二人をじ~っくり観察することこそ、俺の『週末の楽しみ』に他ならない。 - ②へGO! - ************************************************** 2020/12/11

