猫梟合宿~遊園地にて~
「横浜・みなとみらいエリアは、見どころ満載!ですよね。」
「都心から近ぇのに、広々ゆったり穏やか!いい街だよな~」
国内外から訪れたたくさんの観光客が、街中の至る所にいるはずなのに、
どこもそんなに窮屈に感じない…唯一の例外は、中華街の中ぐらいだろうか。
「空も海も道も、大きく開けてますよね。」
「新旧の建物が調和して、本当に美しい。」
浅草や渋谷、新宿に池袋といった、都内の繁華街とは、まるで空気感が違う。
街全体が、広大なテーマパークのような…横浜のコンセプトを感じさせる。
「道幅が広く、区画整理が行き届いた街並みの理由は、関東大震災だそうですね。」
「横浜は震源に近く、壊滅。山下公園はその時の瓦礫を埋立ててできたらしいな。」
歴史的建造物が多く残る中、震災遺構も散策中にたくさん出会う。
ここ赤レンガ倉庫の1号館も、震災で半壊したそうだ。
街の歴史は、百年程。みなとみらい駅は、開業からたった二十年しか経ってない。
「新しい街では、ありますが…」
「みらいを感じる…いい街だ。」
広々リゾートとは言え、休日の日中ともなれば、やはりかなりの人出がある。
人混みがあまり得手ではない黒尾と赤葦にとっては、できるだけ避けたいもの。
そんな二人が、思う存分ゆったり観光を味わうには、この方法が最良だった。
「さすがの赤レンガ倉庫も、朝7時前だと…俺達の独占ですよ!」
「ランナーさんとお散歩ワンコしか居ねぇ…早起き観光、万歳!」
澄んだ空気を吸い、煌めく海を眺めながら、広場や公園のド真ん中を、のんびり散歩!
なんという贅沢。これこそ、観光地のオツな楽しみ方じゃないだろうか。
「地元人オススメのポイントは?」
「臨港パークをぜひ!とのこと。」
臨港パークは、みなとみらい駅に直結する、大イベントホール・パシフィコ横浜の奥…
街の中心から見ると、パシフィコの裏庭的な場所にある、海沿いの公園だ。
誰もが知る観光スポット・山下公園みたいなネームバリューもなく、
パシフィコに来る人も、イベント参加がメインのため、ほぼ地元人向けの公園だが、
港を臨む景色は、絶品…赤レンガや大桟橋を対岸から眺める絶景スポットだ。
「ここは、日中でも広々だそうですよ。」
「この海も独占!すっげぇ贅沢だな~!」
二人は並んで石のベンチに座り、静かに海風を感じ…おにぎりで腹ごしらえ。
いやもう、美味いこと美味いこと…20円引きシールが付いてるとは思えない美味さだ。
どう考えても、早朝観光は三文以上のお得コースだと、自分では自信満々に思うのだが、
黒尾がこのスペシャル散歩に誘って、喜んでノってきてくれたのは、赤葦だけだった。
というよりも、同じ観光プランを提案し、皆からドン引きされてしまったのが実態だ。
「俺、黒尾さん以外の方とは、巧くおデートできる気がしません。」
「確かに。赤葦とだったら、どこに旅行してもノンストレスだな~」
鮭と梅を、半分こ。
緑茶とジャスミン茶も、半分こ。
最後のデザートも…
「イカそうめん、最高ですよね?」
「二度焼醤油煎餅、完璧だろ~?」
軽く拳をぶつけ、穏やかに微笑み合う。
まるで朝の光のような、ふんわりとした空気に、何だか…そわっと。
見慣れないものを間近に目撃した衝撃を隠すように、お互い遠くの橋に視線を飛ばした。
「あー、えーっと、そそそっ、その他に、地元人の、オススメ的なやつはっ!?」
「あっ、はい!えーっと、あ、そうです!知恵袋的な、小ネタがありました!!」
大人気観光施設・カップヌードルミュージアムと、アンパンマンミュージアム。
そして、そのお向かいにある商業施設・ワールドポータース。
この辺りはやはり人がかなり多く、特にポータースの女性トイレは大大大混雑する。
ここに延々並ぶよりは、信号を越えた向かいにある、観覧車の真下・コスモワールド…
その中のトイレ(パシフィコ方面に向かう橋のたもと等)は、穴場中の穴場。
遊園地の中にあるトイレだが、園内の出入り自由のため、もちろんトイレもフリー。
地元人が重宝する、待ち時間ほぼナシの、マーキングスポットだそうだ。
「そういうネタ、ガイドブックには…」
「載ってません…極秘情報扱いかも?」
「早朝散歩ん時は、使えねぇ場所だよな。」
「その時は、ここ。臨港パークでどうぞ。」
赤葦は黒尾の腕を引きながら、クルリ。振り返ると、すぐ側に公衆トイレが見えた。
「あそこで、手を洗って…ほっぺについた海苔を取ってから、お散歩再開しましょう。」
「海苔なら、今この場で、赤葦のリップサービスで、取ってくれても…いいんだぞ~?」
周りに、俺ら以外のだ~れも居ねぇし。
目ぇ瞑っててやるから…ほれ、ほ~れ!
実はピュアな京治クン、できるかな~?
調子に乗って赤葦をからかい倒す黒尾に、何言ってんですかアンタは…と、赤葦は嘆息。
鼻先をムンズっと、思いっきり指先で抓み上げた。
「っ!!?痛ぇーーー…???」
強烈な痛みで目を開けたはずなのに、目の前は真っ暗。
そして、ほっぺに触れた、微かな…温もり?
ぷぷぷっ、ぷかり桟橋まで、競争です!
負けた方が、次の、さ…サービス係っ!
赤葦は黒尾に背を向け、そう叫びながら猛然と桟橋に向けてダッシュ。
呆然と佇む黒尾は、きっちり5秒後…
真っ赤に染まった顔を隠しながら、全速力で赤葦を追い始めた。
「待て待て待てぃ!いいいっ、今のは…っ」
「待ちません!もう…待ち焦がれました!」
- 終 -
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2025.12.04
(2024.12.20分 BLEND小咄移設)