「鉄朗よ。お前の望みは…何だ?」 秘密基地に、迷子の子猫がおる。 ちゅ~るを買って来てくれんか? 自主練後の業務連絡に行くと、猫又監督から新たな雑務…おつかいを頼まれた。 コレが本当におつかいなら、別の『何か』を引き出してやろうと思ったが、 そうする必要もなく、今回はかなり多めのお駄賃が最初から袖の下に捻じ込まれた。 きっと『迷子の子猫』とやらは、俺自身。 ちょっと外に出て息抜きして来いという、監督からのありがたい公認サボり許可だ。 雑務を終えたら、その足で秘密基地へ向かい、非公認サボりを決行するつもりだったから、 まさに願ったり叶ったり…老獪妖怪猫には、全てお見通しというわけだろう。 (叶ったけど…敵わねぇな。) 心の中で頭を深々と下げ、誰にも見られないように気配と足音を殺し、校外へ。 駅とは反対方向の住宅街にある、ややこじんまりとしたコンビニへと歩を向ける。 だがそこで、思いがけない人と、バッタリ遭遇してしまった。 「ま、迷子…ですか?」 「っ!?ちっ、違うぞ!断じて違うからな!」 「そうですか。それじゃ…お疲れ様です。」 「まままっ、待て黒尾! 迷子ではないが…頼む!助けてくれ!」 コンビニ脇の駐車場で、酔っ払いの如く膝をつきヘバっていたのは、白に灰… 大量の珍味が入ったビニール袋を抱えた、梟谷の闇路監督だった。 おそらく、指導者懇親会兼打ち合わせ(飲み会)のアテを、コッソリ買いに来たんだろうが、 どうも、様子が…おかしい。立ち上がるように手を差し出しても、動こうとしない。 「闇路監督、一体どうしたんです?」 「こ、腰が…そこの縁石で、ガクっと…」 「っ!?まさか、ギックリ腰っ!?」 「わからん…スマン、背中を貸して…おぉ!」 闇路監督の頼みを聞き届ける前に、とびっきりの笑顔で膝をつき、しっかり背負い上げて。 できるだけ優しく歩を進め、それ以上に優しい声で、監督を労わった。 「それはそれは、大変ですね。 お任せ下さい。僕が監督を、然るべき場所へ送り届けますから。」 「っ!!?まさかお前、これ幸いにと…敵将の俺を、闇に屠るつもりなんじゃ…」 「まさかまさか!そんな恐ろしいことを、この僕がするわけないじゃないですか。 監督の奥様…あ、デキの良い息子さんにも、ちゃんとこの件をお伝えしておきますから。」 「や、やめろ!いや、やめてくれ!ワイフはともかく、ウチの小姑…じゃなかった、 デキすぎる愛息子にだけは、絶対に内緒にしといてくれ!な、頼むよ!」 これ以上、愛息子のアイツに… 赤葦に心配やら負担やら重荷やら 更にかけるわけには、いかねぇだろ? 「先日の健康診断で、肝臓の数値が悪かったと奴に知られてしまい… 俺のスポドリだけ、糖分塩分控えめのを、わざわざ別に作ってくれてるんだぞ。」 「おやおやそうでしたか。それなら、赤葦の多多多多多大な努力を無駄にしないため… このハイファット珍味の山は、俺が責任もって処理しておきますからね。」 「おっ…お前は鬼か!?俺は、そんな甥っ子に育てた覚えはないぞっ!!」 「アンタに育てられた覚えも、甥っ子になった覚えもねぇよ…この、重荷っ!」 梟雄の将は、子梟達を我が子のように溺愛。 あの自由奔放に飛び回る子梟の、まさに親…豪快で気持ちのいい御仁だ。 愛息子のマブダチ・子猫のことも分け隔てなく、まるで甥っ子のように可愛がってくれる。 猫梟の中間管理職として触れる機会の多い俺とは、何だか妙に馬が合うというか、 特別かつ無遠慮な『可愛がり』を、ことあるごとにぶち込んでくるのだ。 (まるっきり…親戚のオッサン。) 「なぁ鉄朗。叔父貴って呼んでもいいぞ~?」 「誰が名前で呼んでいいって言ったよ?」 「ウチの京治と同じぐらい、可愛くねぇな。」 「京治呼びしたら、シカトされたんだろ?」 「…泣いてもいいか?」 「鼻水、つけんなよ。」 木兎や木葉なんかはさ、俺のことを『親父~♪』って激可愛く慕ってくれんのに、 アイツだけは、頑なに『闇路監督』呼びを徹底してんだよな。 無理して独りで背負わず、俺には甘えていいんだぞ~って言っても、全く聞く耳持たねぇし。 どっちかっつーと、親である俺なんかより、お前の言うことを素直に聞いてんだろ。 「鉄朗さん♪って呼んでくれ…って、試しにアイツに言ってみてくれねぇか?」 「無茶を言うなっ!あーもう、ウルセェな!大人しく背負われとけよ!」 自他共に認める『木兎の親父~♪』殿は、楽しそうに笑いながら足をぷ~らぷら。 もうすっかり、腰は良さそうじゃねぇか。『背負われとけ』なんて、言うんじゃなかった! 両腕で支える腿をギュっと締め上げ、掌で強めにケツをペシペシしてやると、 グェッと潰れた息を飲み込み、ダウン…したフリし、背中に全身を預けてきた。 そして、俺が文句を言う前に、小さな溜息と共にポソポソと零した。 「それなら、お前がアイツを…甘やかしてやってくんねぇか?」 これは、俺の勝手な望みでしかないんだが… ウチん中じゃなくていい。外すぎねぇ近場で、息を抜ける場所ができればいいなぁ~と。 誰に似たんだか、不器用で不愛想で頑固でクソ可愛いウチの京治が、 「あ、コイツに責任を擦り付けてサボっちゃえばいいのか♪」って、ほくそ笑むように… ごく近い外から、お前が悪役買って出つつ、アイツをいい具合に懐柔してくんねぇかな~ 「あくまでも、俺の勝手な『望み』だぞ〜」 別に、お前や神仏が叶えてくれますように!とかいう、他力本願な『願い』じゃねぇから、 お前も「大役を任された!」なんて、気負う必要はねぇ…スル~っと聞き流していいんだぞ~ むしろ、お前もウチの愛息子以上に、どっかでテキトーに息抜きしとけよ〜 …ってなわけで。俺も夢うつつに、小耳に挟んでおいてやろう。 「鉄朗よ。お前の望みは…何だ?」 この人は、本当に…大きな人だ。 そして、賢く狡猾。はねっ返りの愛息子が、敬意をもってついて行くわけだ。 この親あって、あの子あり。間近な傑物を見本にしているからこその、参謀ぶりなんだろう。 だとすれば、俺の答えは…決まっている。 「誰がそんな手に、引っかかるかよ。」 『望む』ってのは、自分が勝手にアタマん中で思うこと…単なる欲望だ。 似ている『願う』の方は、神仏や他人に叶えてくれと、請い願うこと…なんだろ? アンタは俺に『望み』は何かと聞いた。つまり俺の内心を暴露しろっていうだけの話。 この情緒的な雰囲気に乗じて、俺の弱みなり何なりを握ろうっていう、恐ろしい策だな。 「御宅の愛息子殿が、親のそういうトコを受け継がねぇといいな~ってのが、望みだよ。」 「チッ…気付きやがったか。さすがは俺の愛してやまない甥っ子殿だ。」 このっ!この~っ!クッソ愛い奴め!! イイ子イイ子してやる!!ほ~れほれ! あ!そうやって冷たぁ~い溜息を吐く… 可愛げのなさが、京治とソックリだぞ! 「…って、ちょっと待て鉄朗。ココは、音駒高校じゃねぇ、よな?まさか、ホントに…っ」 「さぁ~て、どうだろうな。」 俺の頭をグリグリしていた手を止め、大人しく降参のハンズアップ。 人の気配のない、裏路地の先。門扉に隠れたインターホンを押しながら、 安心しろと言う代わりに、腰を優しく撫でて…最後にバシっと一発お見舞いした。 「ぃっっっ!!!?」 「夜中でも診てくれる、整体だ。ガッツリ治して貰って来いよ。」 叔父貴の腰が、早く治ればいいな~ これが、俺の『望み』だ。 んでもって、闇路監督なら叶えられる 俺の『願い』は… 「…してくれると、いいな。」 お前、可愛いにも程があるだろ。 そう呟いた叔父貴を先生に預け、俺は合宿所へ戻った。 - 終 - ************************************************** No.005 望む 2023/08/02 ETC小咄

