「ハニーにラブレターか?やるなぁ~♪」 「ぅわあっ!!?ちっ、ちげぇよっ!!」 合宿中、晩飯直後(途中?)にちょっとうたた寝したせいか、日付が変わる頃に目が覚めた。 喉が渇いた…何となくリンゴジュースの気分になったから、布団を抜け出してホールへ降りた。 あ、ヤベェ。相当寝ぼけてんな。100円玉、忘れてきちまった。 取りに戻るのもメンドクセェから、食堂の給水器でガマンしよう。 大あくびしながら食堂へ向かうと、後ろの隅っこにだけ、ぼんやり明かりが灯っていた。 テーブルに書類を広げた、赤ジャージのボサボサ頭…ネコの黒尾だった。 (こんな時間まで、ごくろーさん。) よぉーし、500円玉を取りに戻ろう。 そんでもって、背後から冷たいオレンジジュースをほっぺに当てて、キュン!してやろう♪ そう思って踵を返そうとしたけど、俺は我が目を疑ってその場にポカンと固まった。 書類を整えた黒尾は、ぐぐぐーーーっと伸びをしてスマホを手に取ると、誰かにメッセージ… (おやおやおや~~~っ!!??) 何だ何だ何だ、そのふわっふわなホホエミは! いつもはガッチガチにガードが硬ぇ、笑顔型鉄面皮を3枚ぐらい被ってるくせに! やわらか~くて、あったか~くて、ほんわ~りした表情…コッチがキュン♪しそうだったぞ! コレはアレだ、例のやつだ!絶対に間違いないと木葉家の第六感が絶叫している!作戦変更だ! (ドッキドキ☆ラブめ~る!大作戦!!!) 足音と気配を殺し(こういうの、意外と得意♪)、食堂へ侵入。柱の影から黒尾の隙を伺う。 とろっとろの視線でスマホをみつめながら、そっと肉球で送信ボタンを押した瞬間、 背後から黒尾の背中にガバリと飛び付き、ほっぺにほっぺをスリスリしてやった。 「ハニーにラブレターか?やるなぁ~♪」 「ぅわあっ!!?ちっ、ちげぇよっ!!」 珍しく盛大に驚き、咄嗟に立ち上がろうとするのを、椅子越しおんぶでホールド。 その間に、黒尾はスマホをポケットに…さすが、梟谷グループ1、2を争う鉄壁野朗略して鉄朗。 とはいえ、猛禽類の急襲を受けた衝撃は、未だおさまっていない。今がチャンスだ!!! 「んで?ハニーとは上手くイってんのか?」 「はっ、ハニーじゃねぇよ!そんな甘ぇ…」 「なるほど、甘酸っぱい方…片想いか。」 「っ!?そ、それも、違…」 「無自覚か。よし、秋紀クンが恋バナきいて…」 「いらん世話だ!つーか、背中からどけよ!」 「遠慮すんなって。俺らが同じクラスだったら、このポジション…黒尾の後ろが木葉の席だろ? 入学式からマブダチ確定!恋バナ語り合う宿命じゃねぇか。まずは、鉄朗…何組の子だ?」 「知らねぇよ!そもそも同じ学校じゃ…」 「俺とお前が?それとも…ハニー(仮)が?」 「っ!?」 おぉ…っ まさかこいつが、こんなに動揺するとは。今さら化けネコ被ろうとしても、遅ぇっつーの。 当てずっぽう(言葉の勢い的なやつ)で言っただけなのに、図星ドンピシャぶち抜いちゃった。 さすがはMr.器用貧乏。梟谷学園と木葉家が誇る、スーパーマルチの極み!じゃ、なくて! (子猫ちゃん…か~わいい♪) ゴメン。俺が無駄な才能を発揮したばかりに。 お前自身が未だ自覚してなかった『甘酸っぱいやつ』を、こんなカタチで… 優秀過ぎて、ホントにゴメン。ちゃーんと俺が責任取って、良縁成就してやるからな! (さっきの笑顔、ハニー(仮)に届けてやるぞ!) 赤面と冷汗でしっとりしてきたほっぺを、ニヤつくほっぺで、ぷ~にぷに。 寝癖でタってなきゃただの陰キャなボサボサ猫毛を優しく撫でてやりながら、そっと囁いた。 「なぁ、てっちゃん。俺に…大親友のあきちゃんに、ちょっとずつ話してみろよ。 たった今、自覚したばっかりの、淡いキモチの整理…俺が全力で、手伝ってやるから。 もちろん、他言しねぇ。相手がどこの誰だろうと、絶対にお前の力になると、約束する。」 「あ、あきちゃ…んっ!!?」 「?…っ!!?」 一生に一度は言ってみたかったキメ台詞(大親友との恋バナ編)を放ち、心と口と腹を割る瞬間、 黒尾は全身を硬化させて呼吸を止め…その理由を察した木葉家の本能も、俺の息の根を潰した。 「ゃっ、夜分、ぉぉぉ恐れ、入ります。。。」 返信するよりも、直接お話…書類をお届けした方が効率的かと思案し、馳せ参じましたが、 あっ、逢引の最中とは、存じ上げず…っ、お邪魔してしまい、申し訳ございません、でした。 お二人が、あきちゃん&てっ…ちゃん付けで呼び合うほどの、仲睦まじいご関係だったとは…っ 「尻尾の先ほども、気付きません、でした…」 ごっ、ご安心下さい!この赤葦京治、秘め事を吹聴するようなことは、絶対にしません、から! というよりも、他所様に説明できる心境でもなければ、言葉もみつからない状態、なので…っ すっすみません!貴重なお時間を、浪費してしまいました!俺はこの辺で、失礼致しますっ!! あっ、これ…オレンジと、リンゴのジュース、よかったら、お二人で…どうぞ。 「ぉっ、やすみ、なさい…ませ。。。」 ふらっふらにもつれ、がんっがんとどこかにぶつけながら、食堂から離れていく足音。 そして、魂まで抜けそうな重々しい溜息と…鼻ちゅーーーん!!!の爆音が遠くに消えてから、 ずっと引っ付けたままだった、冷たく引き攣ったほっぺを、ようやく静かに引き剥がした。 「あきちゃん…約束、を…っ」 「おぅ…今すぐ、ハニー(確)んとこ、行って…まずは誤解、といてくる。」 甘さよりも酸っぱさが勝るオレンジジュース(濃縮還元100%)を、青白い手に握らせてから、 俺はリンゴジュースを一気にじゅーーーん!と飲み干して、可愛いウチの子梟を追いはじめた。 「あ、てっちゃん!ハニーは…6組だぞ!」 - 終 - ************************************************** 2023/06/06 ETC小咄

